【特集:ワークウエア】鳶服 今昔mono語り~モノ・マガジン加藤編集部員が鳶職人の新旧ワークスタイルを実体験してみたぞ。

鳶職人の仕事着と聞いて誰もが思い浮かべるのは、ダボダボなズボンや地下足袋を履いたちょいワル雰囲気満点なおなじみのあのスタイルだと思う。それはある意味、“ザ・日本のワークウエア”を象徴する代表格でもあった。しかし、そんな鳶職人の姿を最近あまり見なくなったような気がするが……。ここではその真相を探るとともに、新旧鳶服に関する調査を行った。

当時は誰もが憧れた“これぞ王道スタイル”

「昭和や平成の時代はデート、飲み、ボーリング、カラオケ……何から何まで鳶服で用を足してたよ。いまだにそういうベテラン職人もいるけどね」。そう語るのはYouTuber&鳶職人歴32年の共進Informationさん(以下、共進さん)。

鳶職人にとって鳶服は単なる作業着ではなく、「俺は鳶職人だ!」と周りの人に対して自分の存在を誇示するとともに、自らを鼓舞する魅せる道具だった。それゆえにニッカポッカ、ダルマ、七分などいろいろな呼び方があるズボン・シャツ・足袋をあつらえる人も少なくはなかった。

また、機動性の高さや、夏は涼しくて冬は温かい機能性の高さも鳶職人が鳶服を愛してやまない理由だったが、しかし……平成の中頃から鳶職人の仕事着に変化が出始める。

「見た目が悪いことなどから、大手ゼネコンが動き始めてね。最初は仮囲いの中で働く職人に、“仮囲いの中に入るまでは鳶服を着ないように”とのお達しが出たわけよ。法律で禁止されているわけじゃないけれど、この動きがどんどん広まっていって、昔ながらの鳶服を着た職人が減っていったんだよね」と共進さん。

最近ではダボダボのズボンを履くことを禁止する現場も増加。いまや絶滅の危機にある旧来の鳶服だが、ここで疑問がひとつ。現代の鳶職人たちは、いったいどのような恰好をしているのか? そこで登場していただいたのが、神蔵-KAGURA-の忰山 舞さんだ。

岡山県玉野市にて縫製業の長女として生まれた忰山さんだが、その縫製業の正体は過去に数々の名作を生み出してきた老舗鳶服ブランド『鳶TOBI』で知られるカセヤマ。忰山さんも長きに渡って鳶服に携わってきているだけにこだわりもひと一倍強いが、そんな忰山さんが現在模索しているのが、いまの時代に合った令和の鳶服にほかならない。

「最優先しなければならないことは動きやすくて、仕事がしやすくて、ストレスがないことです。その一方で、平成のダボダボなズボンは印象が良くないので、“スマートでカッコよく”も念頭に置く必要があるとも思っています。とくに、ズボンは動きやすいように太もも部分をゆったりさせたり、鉄骨を跨ってもいいように尻当てを付けたり、股上を深くして強度を上げたり、伸びを制限しないようにポケットを少なくするなどの機能性は最低限必要なんですよね。現場には鳶、大工、型枠、鉄筋などさまざまな職種の職人さんたちが作業しているのですが、最近は“誰が鳶職人なの?”という感じで個性がなくなりつつあります。だから、私としては“鳶は鳶としてどういうものが鳶服なのか”を追求しながら、次世代の鳶服の制作にチャレンジしているところです」

時代の流れに大きく左右されたことは否めないが、鳶服もまた大きく変化・進化を遂げつつあるようだ。

■STYLE-1
自分が鳶職人であることを誇示・鼓舞するための魅せる道具

「2010年ごろは鳶職人のほぼ100%がこんな感じでビシっと決めてたね」と共進さんが語る平成の定番スタイル。加藤編集部員が着ているのは『鳶TOBI』ブランド の廃番商品だが、菊の模様がうっすら入っていてオーラがスゴいのなんのって! 着こなしのコツはシャツをズボンにINして、ズボンはなるべく裾が膨らむように調整し、衿はがっつり立てること。「若いころは“テメエが衿を立てるなんぞ10年早ぇ~んだよ”って言われたなぁ(笑)」と共進さん。足元は令和スタイルのような安全靴ではなく、先芯入りの安全足袋が主流だった。

加藤「令和の鳶服に比べて動きやすく、涼しいことにもビックリ! これを着たら肩で風を切って歩きたくなる衝動に駆られるのもわかる気がする」

■ズボンの形や生地は関東と関西で違いあり?

こちらは2000年代前半の『鳶TOBI』ブランドのカタログから抜粋したもの。加藤編集部員が着用した鳶服と同じように見えるが、ズボンは裾までブカブカで若干異なる。じつは、このスタイルは関西流で、関東はズボンの裾が絞られているのが特長だったようだ。また、生地も関西は綿100%が主流だったのに対して、関東ではスーツや学生服に使用されていたサージ素材が重宝された。

■STYLE-2
厳つさ皆無のスタイリッシュなカジュアルコーデ

忰山さんが提案する“令和の鳶服”の一例が次の写真。前時代的なダボダボなズボンを今風に進化させた太ももゆったり&裾細めのデニムとさわやかな白色の立衿シャツをベースに、バスケットシューズと見紛うコンバースの安全靴とインディゴ染めのデニム手甲でトータルコーディネイト。平成の鳶服とのギャップもスゴいが、タウンユースとしても充分に通用するような装いは平成と令和でこんなにも違うのか! と驚くばかり。忰山さん曰く、「一見すると庭師のようなスタイルですが、今回は平成の鳶服のような厳つさをなくしたスタイリッシュなカジュアルコーディネイトを提案させていただきました。
現在、YouTubeチャンネル『建設業を本気で良くする株式会社』で令和の鳶服企画を展開中ですので、興味がある人はエントリーをお待ちしています!」

■そのままデートにも行けちゃうカジュアルな装い

「まさに“現代の鳶服”って感じでイイですね」と忰山さんはご満悦の様子。「手甲を付けると一気に職人っぽくなるね」と共進さんも及第点を与える。

■カトウ編集部員の着用アイテムはこちら!

【シャツ】鳳凰(HOOH)・3700立衿シャツ(価格6160円) 【パンツ】神蔵オリジナルデニム(価格2万2000円~2万3000円) 【安全靴】コンバース・ランスラムPS(価格1万7600円) 【手甲】きねや無敵・デニム手甲 匠 四枚こはぜ(価格1590円) 【ベルト】TS DESIGN・84918 ストレッチベルト(価格4180円)

■神蔵-KAGURA-の忰山舞さんと:YouTuber共進informationさん。

神蔵-KAGURA-の蔵主である忰山さんと現役鳶職人にしてガテン系専門チャンネルのYouTuberでもある共進informationさんに濃い~話をうかがった。

■今回訪れたのは埼玉県新座市にある作業着のセレクトショップ「神蔵 -KAGURA-」

既製品の販売からオリジナル商品やオーダーメイド服の企画・製作・販売まで行う神蔵-KAGURA-。「奥さまやお子さまと一緒に買い物を楽しんでほしい」と語る忰山さんの想いを体現したカジュアルな店内のつくりも◎。

【SHOP INFORMATION】
●所在地:埼玉県新座市野火止3-9-5
●営業時間:10時~20時 ●定休日:土曜日
☎048-478-0734 ●URL:
https://marutake-web.jp/

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  • モノ・マガジン&モノ・マガジンWEB編集長。 1970年生まれ。日本おもちゃ大賞審査員。バイク遍歴とかオーディオ遍歴とか書いてくと大変なことになるので割愛。昭和の団地好き。好きなバンドはイエローマジックオーケストラとグラスバレー。好きな映画は『1999年の夏休み』。WEB同様、モノ・マガジン編集部が日々更新しているFacebook記事も、シェア、いいね!をお願いします。@monomagazine1982 でみつけてね!

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