日本発のガイシャ!?
最近よく目にする個性的な軽バン。よくよく見ると佐川急便かマツキヨココカラ&カンパニーのボディカラーをまとっているヤツだ。ジツはこれらのクルマはASFという日本の企業がリリースしているモノ。経済誌的な表現をするならばASFは自社での製造設備を有しないファブレスメーカー。じゃあ、クルマはどこが? ということになるが製造は中国の自動車メーカーに委託している。参考までに委託先は広西汽車集団傘下の「柳州五菱新能源汽車」で、早い話が中国からの輸入車なのだ。
しかしながら、このクルマは既存のEVを販売しているのではないところは試験に出そうなポイント。今回のクルマ、ASF2.0はEVベンチャー企業でもあるASFが日本市場の声を反映させてゼロから企画、設計して製造だけを中国で行っている。そんなASF2.0に試乗!
佐川ブルーが眩しいクルマ
筆者、一目見たときは国産メーカーのドンガラを利用してEVにコンバートしたクルマだと思ったのだが、なんとまったくの別モノというからタマゲル。もちろんこのご時世、パーツ単体で見れば他メーカーとの共通部品もあるけれど、それは世界中のどのメーカーでも同じこと。
ボディサイズは全長3395mm、全幅1475mm、全高1950mmとホンダのN-VAN eとほぼ同じ、軽自動車規格目一杯だ。
ドアミラーやフロント周りのブルーの差し色がおしゃれでなかなかにカッコイイ。実際撮影していたら、移動式お弁当販売のオニーサンに話しかけられまして、「国産車よりもカッコイイし目立ちますね」と。さらに「自分、擦りそうな地下駐には入らないから前後左右にエアロパーツでもあればもっといい。オレらは目立たないとお客さんが来ないから」と移動販売を営むプロからも高評価であった。ちなみにこのブルーの差し色はクルマの出自を聞けば納得のモノ。
それは佐川急便やマツキヨココカラで配達用として開発されたバックボーンがあるから。なるほど、このアクセントカラーは佐川ブルーか、と納得。
戦闘機並の機能美
ドアを開けるとシートが2つ。後席は格納されているわけではなく、最初から設定されない生粋のビジネスモデル。しかもこのシートは左右で若干サイズが異なっていて運転席の方が大きめになっている。
これもすべては配達現場の声を聞いて作られている。配達は基本的には1人で回るし、クルマのサイズが軽自動車からして家庭やオフィスへのデリバリー専用。すると大きな荷物を載せる必要はない。ただし昨今のネットショッピング全盛での箱モノはたくさん積めなくては仕事にならない、といった感じだ。
仕事人ファーストな設計は随所に見られる。例えばセンターコンソール。小物入れにも使えるし、ボールペンなどを取り外し式の棚を使っていてもタブレットやバインダー、封筒などを立てておけるスペースが確保され、その前方には1000mlサイズの紙パックでも使えるカップホルダー(もちろんペットボトル対応)も。
また頭上にも豊富な収納が。室内灯は大型のLEDだし、USBや100Vコンセントも用意されている。ステアリングにも取り付けられるテーブルの存在も忘れてはいない。
この運転席は仕事場としてこだわったモノ。荷室も同様。後輪の張り出しが皆無でフラットな床は荷物の積み下ろしに有効だし、昨年行われたダスキンの実証実験では棚を作って荷物を分けることも可能。天井を見上げれば荷室用の大きなLEDライトが荷物整理や伝票確認にも役立つ。荷台の下には台車を格納できるスペースはさすがで、荷室は文字通り荷物専用。その広さはビールケースなら33ケース、みかん箱なら68箱搭載可能という。仕事人が仕事場という戦場で戦えるようなアイテムがおごられて(実際、仕事現場の最前線からのファードバックだが)いるのがASF2.0なのだ。
こういった共同開発は過去にもヤマト運輸とトヨタが共同開発したクイックデリバリーがあったように現場ファーストのモノ作りがベースで、都知事もビックリなはず。
実用域では十分以上に走る
そんな機能美溢れるコクピットに陣取ってクルマをスタートさせる。EVといっても構える必要はなく軽自動車っぽいゆるいクリープ現象もあり、違和感は皆無。シフトはDレンジの下はEレンジ(エコモード)がある。このEレンジはバッテリーを積極的に充電するような味付けで回生ブレーキもよく効く。ただし後続車がびっくりするくらいは効かないから安心。そうなったら大切な荷物に問題が生じてしまうから。
ゴーストップの多い街中ではEVのトルクフルな出だしの良さは使いやすかった。そのまま速度を乗せていくと首都高などへの合流では問題ない範囲だったが80km/h付近で伸びが鈍くなる。もちろん100km/h巡行も可能だがそこはゴーストップの多い街中での配達を主としたクルマづくりということを忘れてはイケナイ。ただしキックダウンをしたからあからさまに航続距離が何十km単位で減ることはなかったが。このクルマにそこまで求めるのは贅沢というモノ。動的なスペックは最高出力30kW(約40PS)、最大トルク120Nm。馬力に関しては内燃機関のNAエンジンか少し下回るくらいだが、トルクはリッターカー並。この数値を見ても高速最高! ワインディング最速! ではないはず。
声を大にして言いたいのは街中での使い勝手。最小回転半径は4.4mだし、 あえてパワーやトルクを抑えることで一充電あたりの航続距離は243kmを実現。
また日本市場の声や使い方を考えて、右ハンドルはあたり前田のクラッカー(編集部注:1960年代の前田製菓のCMで一世風靡したフレーズです)、ウィンカーの位置までもキチンと右についている。余談だがボンクラな筆者はガイシャである! という思い込みでワイパーを動かしたのはナイショの話だ。
またワーキングビークルとはいえどもそこは最新のEV。衝突軽減ブレーキや車線逸脱警報機能も当たり前。ユニークだと感じたのはシフトポジションがPやN以外だった時にドアを開くと自動的にPレンジに入ったり、ブレーキを踏んでいてもシートベルトをしていなかったらシフト操作を受けつけてくれなかったりしたこと。
気になる充電は普通充電で6、7時間程度。急速充電ならば60分で80%程度までバッテリーが回復する。
味付けはプロ仕様!
このクルマで乗り心地がウンヌンとか言われているけれど、あくまでもビジネス用途がバックボーンにあることを忘れてはイケナイ。荷室にそれなりの重量物を置いた状態で走ってはいないが、通常は跳ねてしまうようなシチュエーションでも積載時にはキチンとした乗り心地、というか安定したモノになるはずだ。
個人的に趣味のベース基地としてみたい皆さま、残念ながら販売というカタチはとっていない。正確にはリースのみの取り扱いになる。一例だがコスモ石油カーリースの取り扱い車種ではASFもあるので、気になったら調べてみるのもソンはない。そして価格は2023年度の話で恐縮だが、国の補助金を含めれば実質的には驚異の150万円以下でリース可能(営業用の黒ナンバー取得時)。クルマも随時アップデートされるというから要注目な1台であることは間違いない!
ASF2.0
価格 | リースのみ |
全長×全幅×全高 | 3395×1475×1950(mm) |
最高出力 | 30kW |
最大トルク | 120Nm |
一充電走行距離 | 243km |