
長崎の出島に程近い水辺の森公園前着岸壁に停泊中の「トロンプ」。「日蘭交流425周年」にふさわしい場所だ。
2024年の春から夏にかけ、実に多くの外国海軍艦艇が来日しました。それもトルコ、ドイツ、イタリア、フランス、シンガポール、カナダ、オーストラリア……と、欧州や東南アジア、太平洋地域とバラエティに富んだ国と地域からのお客様でした。
この中で欧州海軍が来日した理由は大きく分けてふたつあります。
まず、ひとつ目が、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するため。
中国は、覇権主義的海洋進出を進めており、すでに南シナ海は勝手に彼らのテリトリーにされ、そこを通る船舶を何の権限もないのに排除しています。そこで、航行の自由を守るため、各国は海軍艦艇を南シナ海に派遣して、存在をアピールし、中国海軍艦艇や公船を牽制することにしました。米軍は「航行の自由」作戦と称して、長らく同様の活動を行っておりますが、これにNATOも同調し、艦艇を太平洋地域へと派遣するようになったのです。その活動の途中、親善と補給、休養のため、日本に寄港しているのです。

長崎港へと向かう著中の「トロンプ」。入港前日の9日には、海自護衛艦「あけぼの」と今回が初となる2か国による「日蘭共同訓練」を実施した。
もうひとつ目が、ハワイで開催される環太平洋合同演習「リムパック」に参加するため。同演習では、様々な国の海軍艦艇が集まり、戦術レベルの作戦行動をします。また、海の射爆場PMRFという施設がカウアイ島沖にあります。世界最大規模を誇るこのPMRFで、対空・対艦・対潜に関する実弾射撃を行います。特にNATO各国は、このPMRFでの射撃訓練をしたいので、ハワイまで遥々足を延ばしています。
イタリア海軍空母「カブール」、トルコ海軍「クナルアダ」、インド海軍「シヴァリク」など、珍しい軍艦来日の影に隠れてしまいましたが、ここでは、なかなか興味深い軍艦が来日したことに触れたいと思います。
それが、6月10日に長崎市内にある水辺の森公園前着岸壁へと入港したオランダ海軍のフリゲート「トロンプ」です。表向きの訪日目的は、翌年に「日蘭交流425周年」を控えており、改めて日蘭友好を深めるためです。長崎が選ばれたのも、かつての両国間の貿易の窓口となった出島があるから。なかなかニクイ演出です。

長崎港の手前にかかる女神大橋から、眼下を通過する「トロンプ」を撮影。
今回来日した「トロンプ」は、トータル4隻が建造された「デ・ゼーヴェン・プロヴィンシエン」級の2番艦です。2003年に就役し、満載排水量は6200tと大型の船体を持つ対空能力を高めたマルチ戦闘艦です。
最大の武器となるのが、目標の捜索から追尾、ミサイルの誘導までを行うAPAR多機能レーダーです。“アパール”と読みます。Active Phased Array Radarの略です。
オランダのタレス・ネーデルラント社が開発・製造した完全オリジナルで、アメリカが開発したイージスシステムに匹敵する高い能力を有しています。

マストの付け根にあるのが、APAR多機能レーダー。これと連動したシステムにより優れた防空能力を確立する。
そのAPARを核心となるのが、マストの根元付近4面に設置されたフェーズドアレイレーダーと艦橋構造物の後方にある早期警戒レーダーSMART-Lです。
世界一の防空システムとして、すっかりお茶の間でも認知度が高い“イージスシステム”ですが、世界には、APARのような防空システムはいくつもあるのです。

後部側にある黒い板状のものが早期警戒レーダーSMART-L。
今回の「トロンプ」の航海の真の目的は、オランダ政府が定めている「インド太平洋ガイドライン」に基づき、国際水域における自由航行の権利を示すことです。オランダ海軍が、同作戦を単独で行うのは、今回が初めてとなります。
母港となるデンヘルダー基地を3月9日に出港し、インド、シンガポール、インドネシア、ベトナム、韓国などいくつかの国をまわり、日本へと向かう途上となる南シナ海上で、自由航行を主張するための活動を行いました。

オランダ海軍は、ドットの細かい明るめの青い迷彩服を採用している。
南シナ海を抜け、さらに北上し、日本が目前となった、6月7日―。中国軍は、戦闘機や艦艇を使い、「トロンプ」に対して妨害行為を仕掛けてきました。この行為に対しオランダ国防省は「潜在的に危険な状況が生じた」と中国を非難しましたが、逆に中国側は、非があるのはオランダ側であると反論し、非難の応酬となりました。
6月14日に日本を出発後、「トロンプ」はハワイへと向かいました。「リムパック24」に参加するためです。
「トロンプ」は、実に半年近い長い長い航海を行い、帰国しました。

「トロンプ」のブーゼコム艦長。日本訪問をもってインド太平洋展開作戦が終了したとスピーチ。