爽やか柑橘系なマイナーチェンジ?
プレミアムな方向性から実用性重視まで激アツなコンパクトSUV市場。そんな比例代表もびっくりな激選区にあって輸入登録台数No.1を3年連続で獲得したのがフォルクスワ−ゲンのT-Cross(以下Tクロス)。ヒロシとキーボーの大ヒット曲「3年目の浮気」ではないけれど、2020年デビューの同車がモデルサイクル4年目にしてマイナーチェンジ(以下、マイチェン)を受けた。
一見すると、大きく変わったように見えないゾ、となりそうだがそこが肝かもしれない。マイチェンというと、「まったく別モノやん!」というベクトルと「同じように見えるけどなぁ」の2通りが王道で、どちらにしても魅力アップは固いところ。そして今回のTクロスは後者の方。同じように見えるけど、こってりラーメン店のように魅力は増し増し。それでいて「もたれない」爽やかさを持つクルマになっていた。
楽しい間違い探し?
さてマイチェンであるからして細々な変更を受けているのだけれど、一際目を引くのは新しく追加された3色のボディカラー。グレープイエロー、クリアブルーメタリック、キングズレッドメタリックはクルマのキャラクターを際立ててくれそうだ。なお今回の試乗車はクリアブルーメタリックになる。エクステリアではバンパー形状が前後ともにリニューアル。リアのコンビネーションランプはX字形状のライトに。
またボディサイズも地味に変わっている。グレードにもよるけれど最大で全長が25mm大きくなった。それでいて日本の道路事情でコンパクトSUVと堂々と謳えるボディサイズは健在。ただし、5mm低くなったとはいえ全高は1580mmと立体駐車場は厳しいのが少しばかり残念かも。
お! と思うインテリア。
一方、車内や装備は大きく変わった。まずインテリア。基本的なデザインはマイチェン前と変わらないけれど、ソフトパッドを多く使い、質感どころか見た目の印象も豪華に。さらに全モデルにデジタルコクピットが標準装備化、オプションでデジタルコクピットプロをオーダーすれば10.25インチの大画面になる。お役所のデジタル推進事業的にセンターディスプレイも物理的なスイッチのないタブレット式を採用。中間グレード以上にはシートヒーターもついてしまう、テンコ盛り状態なのだ。
さらにオーディオも一家言あり、中間グレード以上にはBeats製のプレミアムサウンドシステムがオプション設定。モノマガ人の皆様には釈迦に説法で恐縮だが、Beatsはアメリカのオーディオメーカーでラッパー、音楽プロデューサーの二刀流で活躍するDr.Dreらが2006年に設立したブランド。
オヂサンは安心のアレ!?
動的メカニズム的なモノはマイチェン前と変わらない。全モデルFFだし、116PSの最高出力に200Nmのトルクを誇る1リッターの直3ターボエンジンも同様。ただし変わらないと言いつつも、ジツは高膨張比を実現したミラーサイクル化しており燃費もカタログ値で17.0km/Lに。
試乗車のグレードはスタイル。「らしい」ドアノブで剛性を感じるドアを開けて、運転席に。座るとなんとなくの安心感、いや居心地のよさ。ボディ云々という安心感とは違うベクトルで、なんだろうと考えてみたら、オヂサン世代がよぉーく知っている、馴染みのある安心感と気づいてしまった。それはシフトレバーが立っていて、サイドブレーキレバーがキチンとある、ということだ。電動ブレーキの便利さは身に沁みるほどわかるけれど、とっさの緊急回避を考えると、レバー式の方が嬉しいモノ。最近のクルマにあるこだわりのシフトボタンやらダイヤルやらの位置がわかりにくいとか、スタートボタンを探すのに一苦労、から解放された、といえば伝わるだろうか。
そしてそれは走りも同様。部分的にも電動化されていない純内燃機関の味わいと申しましょうか。原始的喜びと申しましょうか。クルマってこうだよね、が詰まっているのだ。しかも3気筒エンジン、音や振動もマイチェン前よりも相当抑え込まれている感があった。組み合わされるミッションは7速DSG。走り出せば滑らかなシフトチェンジはCVTの如し。
タウンスピードではマイチェン前に雑に感じた乗り味の硬さはまったくなく快適。ステアリング操作に対するクルマの反応もリニアだし、ブレーキング時の姿勢も安定傾向なのはさすが。高速などでの合流では踏み込めば踏んだ分だけパワーを出してくれ、3500rpmあたりを超えると回転が鋭くなり、力強く加速する。
装備もポイントで、室内の快適装備とは別に運転支援系の装備も充実傾向で、同一車線内全車速運転支援システム「トラベル・アシスト」は全グレードに付き、加えてマイチェン前では設定のなかったLEDマトリックスヘッドライトの「IQ.LIGHT」はスタイル以上のグレードに標準装備。深夜の通販番組調なら「今なら●●と●●もついて!」と言った具合なのだ。
閑話休題。このヘッドライトの何がスゴイって、それはもう使ったら代用がきかないくらい便利なところ。周囲の交通状況や道路環境を判断してライトの照射範囲を細かく制御し、夜間走行時の視認性や安全性はもちろん疲労感も少ない優れモノなのだ。それは対向車の運転席も判断し、すれ違うドライバーの視界を妨げないというから周りにも優しいモノ。
悩ましくもお得なグレード体系
かように進化したTクロス、グレードはベースのアクティブ、装備充実なスタイル、スポーティなRラインの3つ。アクティブは329万9000円、試乗車のスタイルは359万9000円、Rラインは389万5000円。なんとRラインに至ってはマイチェン前よりも10万円以上値下げの太っ腹! それにしても悩ましい価格設定で、筆者が一番「らしい」と思うアクティブとスタイルの価格差は30万円。その違いは標準装備のアルミホイールが16インチか17インチ、IQライトの有無、シートヒーター、Beatsサウンドシステムがオプションできるか否か、だけといっても過言ではない。
さらに悶絶しそうなほどコスパ抜群なオプションパッケージがスタイルには用意されていて、18インチのアルミホイール、beatsサウンドシステム、専用のインテリア、ブラックアウトされたドアミラーの4点がなんと9万9000円の出血大サービス。ホイールとオーディオだけで元が取れそうだ。街中で使いやすいサイズも考え、遠出をガンガンするならタイヤは安い方がいいけど、たまの遠出やキャンプなら装備は充実してる方が嬉しい……。購入者を悩ますコンパクトSUVに身を焦がせ!
T-Cross TSI STYLE
価格 | 359万9000円から |
全長×全幅×全高 | 4140×1760×1580(mm) |
エンジン | 999cc直列3気筒ターボ |
最高出力 | 116PS/5500rpm |
最大トルク | 200Nm/2000-3500rpm |
WLTCモード燃費 | 17.0km/L |