第302飛行隊のF15によるド派手なデモフライト。同部隊のシンボルマークはクマ。しかし白黒となっているからパンダと誤解されている。
航空自衛隊は、航空機を運用する基地を日本に多数有しています。いずれも、国防の要であり、欠かすことのできない存在です。
しかしながら、どうしてもついて回るのが“騒音問題”……。特に戦闘機が配置されている基地周辺は、離発着の轟音がこだまする。そのため、住民による騒音に対する苦情、そして基地反対運動が起きてしまいやすい。
だからこそ、空自は努力を重ね、地域住民の皆様と共存共栄しようとしています。また、歩み寄る住民がいるのも事実です。
こうして空自と住民とのバランスがうまくとれている場所もあります。
そのひとつが千歳基地(北海道千歳市)と言えるでしょう。そしてそれを体現したイベントが毎年行われています。
それが、「千歳のまちの航空祭」です。
千歳基地に所在する特別航空輸送隊の政府専用機。紅白の機体が美しい。
離陸直前のF-15に観客が声援を送る。それにパイロットが片手を上げて応えている。
2024年につきましては、9月15日に行われました。千歳基地内を一般開放し、同基地に配備されている航空機の他、他の基地からもやってきて、飛行展示を行いました。また、千歳駅から歩いて数分のところにある「グリーンベルト」と呼ばれる約1キロにわたる市民憩いの広場でも関連行事が行われました。まさに空自と住民が、車の両輪のごとく、志を共にして、うまく動いております。今年は空自アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」も曲技飛行を行いました。
千歳基地には、日本最北の空の守りに付く第2航空団が配置されています。対ロシアとの国境を守る部隊であり、東西冷戦時代は対ソ連防衛最前線でもありました。その当時と比べれば、脅威は減じましたが、消滅したわけではありません。ロシア空軍機は、いまなお北海道周辺空域にて情報収集活動や示威行為を行っており、第2航空団は、それらに対処するため、スクランブル発進を行っております。
第302飛行隊創設60周年を記念した特別塗装機。なかなかに奇抜なデザイン。デモフライトもバッチリと行った。
そうしたスクランブルに当たるのが、第2航空団隷下の第201および第203飛行隊です。F-15を配備し、スクランブル任務に当たります。両飛行隊とも半世紀にわたる歴史を誇っております。今回の航空祭では、第203飛行隊が、創設60周年を記念して特別塗装機を用意しました。今回の航空祭では、この特別塗装機によるデモフライトも行われました。
千歳基地には特別航空輸送隊という趣の異なる部隊もあります。この部隊は、主として皇族や内閣総理大臣および閣僚らが使用する政府専用機を運用しています。こうした任務に当たるのはこの部隊のみです。日本の国旗を模した紅白のカラーリングをしたボーイング777-300ERを2機配備しています。
千歳救難隊のU-125A。同部隊に配備されているUH-60Jと共に救難展示を行った。
三沢基地に所在する第3航空団の第302飛行隊も参加。曇天な空模様は残念だったが、迫力あるフライトを披露。
また、三沢基地(青森県三沢市)に所在する第302飛行隊のF-35AライトニングⅡも飛来し、大きな話題となりました。最新鋭の機体だけあり、F-15よりも注目度は高かったかもしれません。低空で背中が見えるほどに機体をひねっての大胆なデモフライトを見せてくれました。
最大の見せ場となったのが、午後1時頃より行われた「ブルーインパルス」の曲技飛行でした。残念ながら、雲が低く、天候も安定しなかったため、水平飛行が中心となる課目しか行われませんでした。
航空祭のトリを務めたのは「ブルーインパルス」。その曲技中にスクランブル発進が行われたため、一時中断する一幕も……。
そのデモフライト中に異例の事態が起きます。突然、一旦飛行を中止するとの会場アナウンスが流れたのです。それから間髪入れず、空対空ミサイルを搭載した2機のF-15が飛び立っていきました。なんと航空祭の最中に本物のスクランブル発進が行われたのです。
その2機が飛び立つと、曲技飛行は再開されました。
今回の「千歳のまちの航空祭」では、地域との絆を深める目的と共に、日本が置かれている非常に厳しい安全保障環境を否が応でも見せつけられる形ともなりました。
天候不良のため、水平課目のみとなってしまった「ブルーインパルス」。しかし、華麗な曲技の数々は多くの来場者を魅了したのは間違いない。