菊池雅之のミリタリーレポート スーパーガルーダシールド24【前編】

亜熱帯のジャングルを進む空挺隊員たち。パレンバン空挺作戦を勝利した“空の神兵”の末裔たちが再びインドネシアで戦いを繰り広げた。

世界では、実に数多くの軍事演習が行われています。“演習”の中には、他の国と2カ国間で実施するものもあれば、数か国が顔を揃える多国間演習というものもあります。

他国と一緒に演習する目的は、自分たちとは異なる戦術、装備体系を持つ部隊と訓練することにより、戦術技量を向上させることができ、お互いを理解し合うことで、軍事的なパートナーシップを深めることができるからです。

こうして「我々は近隣諸国と強固な安全保障体制を構築している」と世界にPRするとことで、その地域に侵攻を企てることが難しいと思わせる政治的な目的もあります。日本で言えば、日米安保条約に基づき、陸海空自衛隊と米軍は2か国間訓練を実施していますし、それを対外的にアピールすることで、中国や北朝鮮に軍事的メッセージを送っています。最近では同志国という枠組みを設け、日本はオーストラリアやインド、イギリス、フランスなどと訓練を行うようになりました。

水陸機動団隷下の特科大隊には120㎜迫撃砲が配備されている。同砲を牽引してきた高機動車から飛び出し、速やかに射撃できる態勢を整える隊員たち。

アジア地域全体を見回しても、多くの多国間軍事演習が行われております。

その中で、今回は、歴史は浅いながらも、巨大演習へと進化の途上にある「スーパーガルーダシールド」をご紹介したいと思います。

この演習は、インドネシアが主催国となっております。もともと2007年に、アメリカとインドネシアの2か国間軍事演習として始まった「ガルーダシールド」が大元です。

アメリカは、特にベトナム戦争以降、東南アジア各国と訓練の機会を作っていきました。中でも1982年よりタイとの間で、2か国間軍事演習「コブラゴールド」をスタートしました。それ以降、アメリカは、シンガポール、マレーシア、そしてインドネシアなど東南アジア各国と訓練をするようになります。

そして2カ国間軍事演習は、規模を拡大して、多国間軍事演習へと進化していくケースが多いです。「コブラゴールド」もそのひとつで、規模を拡大していき、今では世界有数の多国間軍事演習となりました。

120㎜迫撃砲RT。普通科連隊の重迫撃砲中隊が取り扱う武器であるが、水陸機動団ではと特科職種の隊員たちにより運用されている。

今回ご紹介する「ガルーダシールド」も同じように、回を追うごとにオブザーバーとして参加する国も増えていき、2022年から完全なる多国間軍事演習となりました。日本もこの年から参加しています。こうした規模の拡大を受け、演習のコードネームに“スーパー”を付け加え、「スーパーガルーダシールド」と改称し、生まれ変わりました。

2024年については、8月26日から9月6日の間に「スーパーガルーダシールド24」として行われました。例年通り、ジャワ島やスマトラ島内の各駐屯地や演習場等で実施され、主たる参加部隊は、主催国であるインドネシア、アメリカの他、日本、オーストラリア、シンガポール、イギリスの6か国となりました。これに韓国やインドなどオブザーバー参加国も合わせると、22か国が顔を揃えました。わずか数年で、数の上では世界有数の多国間訓練へと様変わりしました。

120㎜迫撃砲の陣地を警戒する隊員たち。今回はかまえているのは89式小銃。

日本からは水陸機動団と第1空挺団から約280名(司令部要員等も含む)が参加しました。両部隊とも陸上総隊直轄部隊であり、島嶼防衛のエースです。

この訓練に参加する目的について、防衛省は、「共同による島しょ奪回作戦・戦闘を演練し、作戦遂行能力及び戦術技量の向上を図る」ためと説明しております。

第1空挺団は、8月29日、スマトラ島バトラジャ演習場にて、空挺降下訓練を行いました。横田基地に部隊を置く第374空輸航空団のC-130Jへと乗り込み、米軍やインドネシア軍とともに降下し、翌日からドディカプール地区にてジャングル環境下における行動訓練を実施しました。

第1空挺団第2普通科大隊の隊員たちによる訓練の様子。

第1空挺団がインドネシアで訓練することに特別な思いを抱く人もいます。それは、太平洋戦争でのある有名なエピソードに起因します。

帝国陸軍には、落下傘部隊である「挺進連隊」が編成されていました。“空の神兵”と謳われており、精強精鋭部隊として知られています。

その「空の神兵」たちは、当時オランダ領だったスマトラ島パレンバンにおいて空挺作戦を繰り広げ、見事大勝しました。強襲作戦はかなり困難な戦いとなることが多く、このパレンバン奇襲作戦の成功劇は、まさに伝説として今に語り継がれています。

第1空挺団は、現代の日本に存在する唯一の空挺部隊であり、間違いなく「空の神兵」の末裔です。第1空挺団が所在する習志野駐屯地には、「空の神兵」像が建立されており、その伝統、そして精強さをしっかりと受け継いでいます。

だからこそ、第1空挺団の隊員であれば、インドネシアの亜熱帯のジャングルへと空挺降下し、行軍している自分とかつての「空の神兵」をオーバーラップさせたことでしょう。

84㎜無反動砲を構える隊員。FFV社(スウェーデン)が開発し、日本国内でライセンス生産されている。約1㎞の射距離を誇る。

一方、水陸機動団からは、偵察部隊や2024年3月に新編した特科大隊第3射撃中隊が参加しました。155㎜りゅう弾砲FH70やMLRSといった装備を扱う他の特科部隊から選抜された隊員を集め、新編からわずか半年しか経ってない部隊ではありましたが、チームワークは完ぺき、練度も非常に高く、もちろん士気も高い、と3拍子揃っていました。

これら部隊は、日本の看板を背負い、各訓練を行っていきました。

後編では、各国の部隊について見ていきます!(続く)

  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75

関連記事一覧