お酒博士・橋口孝司の酒千夜 Vol.35 蒸溜所訪問記「SAKURAO DISTILLERY」(広島県)

■瀬戸内海を望む海辺の蒸溜所

今回は、私が訪問したウイスキー蒸溜所を紹介します。

銀座のバーで「桜尾 シェリーカスク(シングルモルトジャパニーズウイスキー)」を飲んで美味しいなぁと思ってから、気になっていた蒸溜所でした。

広島県廿日市市桜尾の地にあるSAKURAO DISTILLERYは、目の前が瀬戸内海という海辺に建つ蒸溜所です。蒸溜所に向かって歩いていると、ほんのりと海の潮の香りを感じました。「海辺の蒸溜所といえば、スコットランド・アイラ島の蒸溜所だなぁ」などと思いを巡らせながら蒸溜所を目指しました。

■充実のビジターセンター

蒸溜所に到着。

見学ツアーの時間になるまでの間、ビジターセンターを拝見することにしました。

ウイスキーはもちろん、ジンや日本酒、焼酎、リキュール、食べ物、グッズなど色々な商品を購入することができます。見学ツアーに参加しなくても、買い物だけすることができます。

ウイスキー以外にもたくさんのお酒がある理由は、実はこちらの会社は元々中国醸造という名前で、1918年創業の歴史ある会社です。日本酒「一代弥山」や焼酎「ダルマ」をはじめ様々な酒を造っている総合酒類メーカーなのです。2021年に「株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー」となりました。

現在でも様々なお酒を造っているので、ビジターセンターで購入できるお酒も多種多様。

また、お酒だけではなく、お酒を使ったお菓子やおつまみ、お酒に関するグッズ、おしゃれなジージャンまで販売しています。スタッフの皆さんも親切で丁寧に説明してくれますので、わからない事があったら遠慮なく聞いてみると良いでしょう。ここでしか買えない物がたくさんあるので、お土産に買って帰ると喜ばれると思います。

ウイスキーでは、蒸溜所限定ウイスキー「シングルモルト宮の鹿」の他に、新たな蒸溜限定商品として「ソーテルヌカスクフィニッシュ(シングルモルト)」も店頭に並んでいました。

蒸溜所限定品「シングルモルト宮の鹿」

蒸溜所限定品「シングルモルト桜尾 ソーテルヌカスクフィニッシュ」

■蒸溜所見学ツアーへ

蒸溜所の見学ツアーは事前予約制で1日3回、内1回は英語で開催されています。時間になるとビジターセンター内の受付に参加者が集まり、ツアーがスタートしました。

ビジターセンターを出て蒸溜所へ向かう途中には、試験用に使っていたという蒸溜器などがあってフォトスポットになっています。

いよいよ建物の中に入ると、目の前にドーンと蒸溜器が。

ホルスタイン社製のハイブリッド式蒸溜器が1基とその奥にはランタン型のポットスチルがあります。ハイブリッド式蒸溜器でジンを、ハイブリッド式蒸溜器とポットスチルを使ってウイスキーを造っているそうです。

蒸溜器の前のスペースでは、まずジンの紹介をしていただきました。

蒸溜所近くの山のジュニパーベリーをはじめ、レモンや牡蠣の殻、ヒノキ、桜などの広島県産のボタニカルを使った国産のジンが造られています。開発のストーリーなども見ると、その土地ならではのジンを作る「Made in広島」へのこだわりをとても強く感じました。

ジンに使われている様々なボタニカルを見ることができます

次はいよいよウイスキーの紹介へ。

2017年、会社創業100年を迎えるにあたって設立したのがSAKURAO DISTILLERY。1989年に休止したウイスキー造りも、新たにスタートしたという歴史からお話は始まります。

SAKURAO DISTILLERYでは、大麦麦芽のみを原料とするモルトウイスキーと、国産大麦と大麦麦芽を原料としたグレーンウイスキーを造っています。

ウイスキーの製造工程の紹介をする動画では、麦芽を糖化・発酵し、蒸溜から熟成の工程について紹介。モルトウイスキーの場合、1トンの原料から約600リットルの原酒が出来るそうです。

ウイスキー造りに使われているグリスト(粉砕後の大麦麦芽)と麦汁

■2カ所の貯蔵庫(桜尾と戸河内)

その後、グレーンウイスキーの製造場所を見学しながら(ここは撮影NGでした)貯蔵庫に向かいました。

樽が積み上げられた貯蔵庫内は、ウイスキー樽独特の香りがします。ダンネージ式に積まれた樽は、シェリー樽やミズナラ樽など様々な樽が使われているそうです。

貯蔵庫の中では、ウイスキーの熟成について環境の異なる2カ所の貯蔵庫での熟成について紹介されます。

蒸溜所限定販売ウイスキーの名前にもなっている「宮の鹿」のキャラクターが、プロジェクションマッピングの中で貯蔵庫の様子を教えてくれるストーリーになっていました。貯蔵庫の中に風景などが映し出され、何だか幻想的な雰囲気でした。

海に近い「桜尾貯蔵庫」と、桜尾から車で1時間ほどの山中にある「戸河内貯蔵庫」は、ウイスキーの熟成に深く関わる温度や湿度がかなり違います。戸河内貯蔵庫は、中国山地の中にある旧国鉄の廃トンネルを利用したもので、湿度が高く気温が桜尾よりも冷涼なため『天使の分け前』も1年に1〜2%と少ないのだそうです。熟成する場所によって違った特徴をもつウイスキーへと成長していく過程を見ることができました。

※天使の分け前 熟成を要する酒類において、「熟成中に水分・アルコール分が蒸発し、最終的な製造量が目減りすること

そして最後はビジターセンターに戻りテイスティング。ウイスキーやジン、リキュールなども試飲することができて、テイスティングに使ったグラスはお土産としてもらうことができます!

■新しい蒸溜所へ

株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリーは、昨年(2023年)9月に、新しいニュースを発表しました。

【風光明媚なウイスキー蒸留所併設型テーマパーク 新蒸留所 SAKURAO YOSHIWA WHISKY PARK(仮称)を開設予定】という内容です。

“ウイスキーのテーマパーク”なんて今まで聞いたことがありません!その中には新たな蒸溜所が出来て、また新しいウイスキー造りが始まるというのです。

2025年秋竣工予定、どんな場所になるのか今から完成が楽しみです。

詳細はこちら

SAKURAO DISTILLERY
所在地:広島県廿日市市桜尾1-12-1
SAKURAO DISTILLERY公式サイト
オーナー会社:株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー
蒸溜開始年:2017年

  • 株式会社ホスピタリティバンク代表取締役 ホテルバーテンダーから料飲支配人、新規ホテル開業準備室長、運営などをてがけ26年間ホテルに勤務。2008年より株式会社ホスピタリティバンク代表取締役に就任。バー開業コンサルティングなどを手がけ酒類関連団体の顧問、理事を歴任し国内外で講演、セミナーを行っている。ウイスキーバープロデュース・運営(2017-2019)を行う。 シャンパーニュ騎士団「シュバリエ」、ベルギービールプロフェッサー、日本伝統濁酒学博士などの称号を持つ。 2015年からは「橋口孝司 燻製料理とお酒の教室」にてセミナーの開催や、ウイスキーを愉しむイベント「ザ・シークレットバー」も銀座と西麻布にて定期的に開催している。 「ディスティラリーパッケージ1992」を皮切りに、「ウイスキーの教科書」「カクテル&スピリッツの教科書」「本格焼酎名酒事典」「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」などを執筆、「世界のウイスキー図鑑」「世界のベストウイスキー」「ハリウッドカクテル日本語版」などを監修。ウイスキー、カクテル、スピリッツを中心に酒類に関する執筆・監修は26冊以上。 Webでは、「たべぷろ」にて執筆(https://tabepro.jp/author/hashiguchi) 「江崎グリコ お酒の話」を監修(https://jp.glico.com/osake/index.html)
  • https://www.hospitality-bank.com/

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