日本科学未来館で、併設する研究エリアに入居する「知的やわらかものづくり革命」プロジェクト(研究代表者:山形大学ソフト&ウェットマター工学研究室教授、古川英光氏(写真上))が開発中の3Dフードプリンターで作った寿司ネタを、一般来館者に試食提供する実証実験イベントを実施した。イベント名は「3Dフードプリンターで作るお寿司! 食べて考えるフードロス」。古川教授が考える、3Dフードプリンターを活用したフードロス問題の解決策とは、いったいどのようなことなのか? モノ・マガジンwebスタッフも、その実証実験に参加してきた。
専門が「やわらかもの・ゲル」という古川教授。「知的やわらかものづくり革命」では、やわらかい素材で作る本物そっくりのクラゲ、肉球のような触感を持つロボットなど、やわらかい素材の新しい使い方を模索している。
「食品もゲルであることから、3Dフードプリンターの研究開発を進めてきました。今日は3Dフードプリンターによって未来の食事がどのように変わるのかを、みなさんに予想していただきたいです!」と古川教授。
これまでに3Dフードプリンターで印刷された寿司ネタ。
山形大学で進めている3Dフードプリンターは以下の3機種がある。
スクリュー式3Dフードプリンター
「FP-3000」
スクリューでペースト状の食材を押し出して造形。食材の自由度が高く、比較的硬い材料も使用できる。
インクジェット式3Dフードプリンター
「JETCOOK」
食材の液滴をインクジェットで噴射して造形。無重力での利用も想定し設計されている。
レーザー式3Dフードプリンター
「LASERCOOK」
液体の食材をレーザーで局所加熱し立体を造形。内部構造を設計することで、さまざまな食感を作り出すことができる。
それでは、この3Dフードプリンターをどのようにサステナブルに活用させるのか? 古川教授が目をつけたのは以下の2つの「もったいない」だ。
もったいない①「収穫されるのに食べられていない多くの食材がある」
たとえば野菜の場合、収穫量と出荷量の間には、毎年のように一定のギャップがある。需要と供給のバランス調整が一因で、農作物の3分の1は毎年出荷されていないのが現状だ。
もったいない②「使われていない冷たいエネルギーがある」
液化天然ガス(LNG)は輸送のためにガスを冷やして液体にしたものだ。国内でガスとして使う際に気化熱として多くの冷たいエネルギー(冷熱)が生じる。この冷熱は十分に活用されていない。未使用冷熱はマイナス196℃。
この未利用食材と未利用冷熱の2つのもったいないをかけ合わせることで、旬の栄養価が高くおいしい食材をいつも食べられるよう、長期保存できないだろうか。未利用食材を凍結粉砕し、含水ゲル粉末にすれば長期保存が可能な上、おいしさも保てるかもしれない。つまりフードロス削減の糸口があるのではないか。
もちろん課題はある。どのように食材を集め、どのようにエネルギーを効率的に使い、そして、どのように消費者に普及させるか。さらに含水ゲル粉末をおいしく食べられるようにするには、どんなレシピがいいのか。
ここで、含水ゲル粉末を再び食品として印刷するための道具として、3Dフードプリンターが有用なのではないかと古川教授は考えた。
ハイ、ここでこの日の実証実験に出されたメニューの紹介だ。それは「たこのお寿司」(3Dフードプリンターで再現するのは、あくまでもネタの部分のみ。握ったシャリは普通のお米だ)。このセレクトは古川教授がタコがお好きだからということと、昨今タコが高騰していてマグロより高くなってしまっているというのも理由のひとつなのではないか。
そういうこともあってなのかどうなのかはわからないが、材料はタコではなく、魚のすり身。すり身は解凍後、室温に戻すことで弾力が増し、食感がよくなるそうだ。
寿司ネタのタコはスクリュー式の「FP-3000」で印刷された。
スタッフも当然実食した。そのために参加したようなもんなんで。だって気になるでしょう、3Dフードプリンターで作った寿司の味。
では、まず見た目。色味的には表面の赤黒さと身の白さが再現され、チラッと見はタコだ。吸盤はもう少しがんばればさらにリアルになりそうな気が。
舌触りはこんにゃくのような、かまぼこのようなツルッとした感じで、タコに近いような。
そして風味は結構がんばってタコ感を出していたと思う。
問題は食感だ。タコの弾力がない。かまぼこのようだ。一般参加者も特に食感については手厳しい意見を言っていたし、古川教授自身もそれには同感で、これからの大きな課題であることは認識されているようだった。
さらに印刷スピードも課題のひとつ。ひとネタ印刷するのに3分近くかかっていた。しかし、こうした課題を検証するために行われた実証実験なので、ケチをつけているワケではないことをご了承いただきたい。
テクノロジーの進化は加速する。3Dフードプリンターが既成の料理の再現だけにとどまらず、新たな食品を創造するなどして、フードロス削減にひと役買ってくれるようになるのも、そんなに遠い未来の話ではないような気がする。