国内マツダの旗艦
旗艦といえば、昔の海軍用語で司令官が座乗し指揮をとる船のことで、艦隊の象徴の意味も含まれる。そして今では象徴にクローズアップされ多くのジャンルでも使われている。国内マツダのフラッグシップを担う、CX-80がデビューした。
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CX-80はマツダが展開する「ラージ商品群」に属するSUV。ラージ商品群とは、えいや! と乱暴に言ってしまえば、新開発のプラットフォームに縦置きのパワーユニットを搭載し、AWDモデルであってもFRがベースだ。具体的にはCX-60、CX-70、CX-80、CX-90になるのだが、国内ではCX-60が先陣を切ってデビューしている。CX-60は本webにもあるので気になったらぜひチェックを!
さて。CX-80は3列シートのCX-8の後継モデルでもあるからして、6人乗りと7人乗りが選択可能。ボディサイズはCX-8よりも一回り大きくなった。スーツを瀟洒に着こなすようなエレガントさを出しつつ遊び心を混ぜ合わせた印象のデザインで、グリルインシグニアと呼ばれるグリルのアクセントがいい雰囲気。試乗車に使われている磨き上げた銅のようなメルティングカッパーメタリックは新色で、これまた似合いまくり。陽の当たり方や角度でクルマの表情を変えてくれる。
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そしてパワーユニットの存在を示すフェンダーのロゴやボディ同色のカギといった小技をビンビン効かせ、好きモノのツボをついてくるのだ。
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役員車にいかがっすか?
CX-8の後継モデルでもあり、国内マツダの旗艦を担うだけあり、ゆとりある車内空間も魅力。6人乗り、7人乗りが選択可能なのは前述の通りだが、ウォークスルーが可能な2列目キャプテンシート、完全セパレートな2列目シート、3人座れる2列目ベンチシートなど 用途に応じたバリエーションもユーザーファースト。
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試乗車は6人乗りの2列目完全セパレートシートタイプ。専用のエアコン操作パネルはもちろん、シートヒーターやシートクーラーも装備される。CX-8からのキャリーオーバー的装備のサイドガラスサンシェードは西陽などでは便利。センターコンソールはカップホルダーや小物入れのほか、底部には箱ティッシュが収納できそうな引き出しもあり、お・も・て・な・し感満載。広いし、ショーファー的にも使えそうで、「SUVの役員車」とくれば危機管理能力も高そうだ、と思われること請け合い。衆院選で当選されたセンセー方、1台いかがっすか?
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走りも推しなのよ
CX-80に用意されたパワーユニットは純内燃機関、マイルドハイブリッド、外部充電にも対応するPHEVの3つ。PHEVは2.5リッターのガソリンエンジンだがレギュラーガソリン対応というオマケ付き。それ以外はディーゼルエンジンだ。また純ディーゼルエンジン車に限りFRも選択可能。なおAWDモデルは前述の通り、FRベース。
試乗車は純内燃機関のXD Exclusive modeのAWD。懐かしきタイムボカンシリーズのごとく、ポチッとな! とエンジン始動。撮影当日は昼頃まで雨で肌寒かったがステアリングヒーターのおかげで冷え知らず。なおステアリングヒーターは全周ではなく、左右の一部が温まるタイプ。
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組み合わされる8ATは燃費を考慮して早めにシフトアップされるため、ギアを落として車間を調整する時は2速くらいは落とす必要があった。
扱い易さはさすが。試乗車は前述の通り3.3リッターの直6ディーゼルターボの純内燃機関車。そのスペックは231PS、500Nm。街乗りでは豊かなトルクでこの図体ながらもあからさまに「踏む」必要を感じずに、そのまま交通の流れをリードするのは朝飯前。
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またこの直6エンジン、ディーゼルながらもレスポンスよく大変気持ちのいいエンジンでもある。
さて。ベースはCX-60であり、サスも同様にフロントにダブルウィッシュボーン、後輪はマルチリンクを採用している。筆者個人では許容範囲内なのだが方々でCX-60の乗り心地はウンヌンと言われているけれど、背も高いSUVであれだけの気持ちいいコーナリングを披露してくれるクルマは数少ない。マツダ側もダイレクトさを追求し、横揺れを抑える方向でのセッティングと言っていることだし。しかしながら、あまり言われないことだけれどCX-60の幾つかのグレードではリアサスの味付け(ピロボールを少なめにし、スタビライザーレス)が異なっており、コチラの方はかなりしなやかさんだった。
CX-80に話が戻る。簡単に申し上げると、CX-60のリアのスプリングを柔らかいモノに変更し、組み合わせるショックアブソーバーの減衰力は強めなセッティングになっているという。それがクルマに合っているようでかなり快適だった。ひとえに乗り心地がいいと言うと、フワンフワンするような味付やしなりのあるやや固め系、フトコロが深くしなやか系などなど麺の茹で方のように多くのベクトルがあるけれど、CX-80は固っ! とはならない系と感じた。もちろん路面のインフォーメーションはキチンと伝わってくるし、突き上げ感も少ないばかりか路面のいい高速道路ではなんとも言えない絶妙な乗り心地を提供してくれた。
クネッタ道ではドライブモードをスポーツに。さすがにボディサイズを感じるけれど、ドライバーの意思に忠実で、巨体と高いアイポイントとは思えない走りを披露してくれた。
CX-80はAWDといっても前輪をモーター駆動としていないから運転した楽しさ、操っている満足感は高い。さすがドライビングフィールに一家言あるマツダのSUVだ。
ドライブ依存症が進みそう!?
直線距離にして約200kmほどドライブ依存症が進んだような筆者。今回は高速6割、街中2割、渋滞1割、山道1割の割合で約1000kmの長距離行程。しかも1000km走破しても満タンのいわゆるワンタンクで済んだ。つまり返却時の給油でことたりたのだ! その燃費は満タン法で17.4km/Lを達成セリ。余談だが燃料タンク容量は74L。メーターを確認すると、給油までの走行可能距離が1080kmとビッグ。この考え方、いや実践的なモノならば、得意科目長距離といっても過言ではあるまいて。
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例えば、東京から岩手県庁のある盛岡市や和歌山県庁のある和歌山市が約500km。なんとワンタンクで往復できてしまうのだ!
快適な移動体であるCX-80での高速道路。80km/hで1250rpm、120km/hで1750rpmの回転域だが、車内の静粛性も高い。ただレーンキープアシストが筆者の想像以上に介入して自分の想像するラインと違うと操舵力が途中で異なることもあったので、途中からオフにしてしまった。ACC作動中はオンにしておくと疲れ知らずで距離を稼げるので、好みの範疇だと思う。また街中でも積極的にMTモードを使うときはシフトダウンに重きを置いたほうがいい印象だった。教習所的に3転がり半で2速に入れる。2速へは1500rpmでも入ってくれるが、3速へはギア比の都合で1800rpmくらいでないと受け付けてくれない。また渋滞時でも同様に操作すると若干ギクシャクすることもあった。
実力高しな3列目
CX-80のもうひとつの魅力は3列目の実用性にあるのだ。この3列目をご覧ください! ライバルメーカーの3列目は大人が座ると背もたれが背中の半分までしかなかったり、ユニークな形状の薄いヘッドレストであったりと格納に主眼を置いて工夫されているモノが多いけれど、CX-80の3列目は背もたれがキチンと他の席と遜色ないサイズになっているのだ。しかも USBポートやドリンクホルダーはもちろん、3列目専用の空調吹き出し口もあるなど至れり尽くせり。身長175cmの筆者が座っても頭上スペースを含め窮屈感はなかった。
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無理やりアラを探せば座面と床面が若干近いので身長や体型によっては体育座り的な姿勢気味になることくらい。また2列目はシートスライドが3段階しか確認できなかったのだが、その範囲内での印象だと2列目をもっとも前方にしてしまえば2列目も3列目も平等な足元スペースに。早い話がかなり「使える」3列目なのだ。
乗り心地は3列目は場所が場所だけあって突き上げ感は避けようがないけれど、それは強くなく長距離でも苦ではないモノ。欲をいえば頻繁に3列目を使うユーザー向けに小型でもいいのでセンターアームレストがあると、なお可だと思う。筆者も体験した限り1時間でも苦ではなかった。
またCX-8でも謳っていた3列目の世界有数の安全性能は健在。日本の追突安全基準は「50km/h追突時に燃料漏れしないこと」だけ。逆に言えば3列目のスペースがどう潰れようと燃料漏れしなければ基準を満たしているともいえてしまう。しかしCX-80はCX-8同様にアメリカの「80km/hからのオフセット衝突でも燃料漏れしない」基準だけでなく、その衝突でも3列目の生存空間を確保しているのだ。
そして3列目を使ったフル乗車でも工夫次第で1泊2日程度なら人数分荷物を積める荷室スペースはあるし、普段は4人程度しか乗らないのならかなり広い荷室になる。
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100年企業の本気
ジツはマツダは2020年に100周年を迎えている老舗メーカー。ブランドの基本コンセプトは「ひとの力を信じ、ひとの可能性を引き出す」という。つまりクルマは人が操ってこそ、と解釈するのは飛躍しすぎだろうか。
最近では欧州ユーロ7や米国LEV4・Tier4などの厳しい環境規制に適合できる新型4気筒エンジンSKYACTIV-Zエンジンを開発中とアナウンスし、それを2027年中には市場投入を目指すと発表する。内燃機関を諦めないこだわりの漢でもある。そんなマツダのフラッグシップSUVはなんと400万円を切る394万3500円からの価格設定になっている。驚異的なコスパもCX-8同様。おしゃれなSUVで多人数で頻繁に出かけるならCX-80にロックオンだ!
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マツダ CX-80
XD Exclusive mode
価格 | 545万円〜 |
全長×全幅×全高 | 4990×1890×1710(mm) |
エンジン | 3283cc直6ディーゼル |
最高出力 | 231PS/4000-4200rpm |
最大トルク | 500Nm/1500-3000rpm |
WLTCモード燃費 | 16.7km/L |