[編集部より]
「本好き」「本読み」じゃない人たちにも、実はあなたが興味のある情報がこの本に入っているんですよ、ということを伝えるため、その本の出版に携わった方に「この本はこんなにおもしろいんだ!」という熱のこもったテキストを寄稿いただいてます。そういう感じのブックレビューです。
第10回は『君はなぜ北極を歩かないのか』というすごいタイトルの本です。北極を歩き回っている人じゃないといえないセリフですけど、それもそのはず、著者は北極冒険家の荻田泰永さん。その著者自らのレビューになります。熱い本です。若い方はもちろん、「おれ、息詰まっちゃってるかも・・・」という人にも是非読んでほしい。突破口を開くヒントが見つかるかも。
それでは、「本モノReview」をお楽しみください。
第10回
若者たちはなぜ北極を目指したのか。旅は、彼らに何をもたらすのか。
文/荻田泰永(北極冒険家)
アウトドア経験もゼロ、キャンプもろくにしたことがない。そんな普通の大学生や新卒社会人の若者たちを氷点下30度の北極に連れて行き、1ヶ月にわたる600kmの徒歩冒険をしたらどうなるのか。
普通では考えられないような「たられば」を実践した現実の旅の様子を収めた一冊。
著者は私だ。北極冒険家として、これまで20年以上、北極や南極ばかりを一万キロほど歩いてきた。
平均年齢23歳、女性2名を含む12名の若者たちは全員がアウトドア経験もない。
メンバーが集まる過程で、私が取った手法は「冒険の告知はするが募集はかけない」というものだった。募集されてもいない冒険の旅に、主体的に自分から飛び込んできた若者たちだ。
実際の冒険は、テントや寝袋、食料などを搭載したソリを各自が引いて、凍った海の上を歩く日々。日本から超異世界の北極に飛び込んだ彼らは、スタート当初は高揚した気分で浮き足立つ。凍ったペプシで大騒ぎし、連帯感の生まれた仲間たちと、寝る間を惜しんでお喋りに興じる。冒険を真に彼らの血肉にする「旅」に昇華させるため、私は彼らの様子をひたすら観察し、成長の局面を見逃さずに対応する。
参加した女性メンバーの一人、東京藝術大学で絵画を学ぶ松永は、最も小柄で冒険とは程遠い日常にいた。「中学高校は何部だったの?」と、私が尋ねると「美術部です」との答え。だろうな、と私は笑った。
体力は乏しい彼女であったが、北極の現場で精神的な強さを最も感じさせたのが、実は彼女だった。青白い炎が心の内で燃えているように感じた。
若者たちとの冒険は、多くのアクシデントや苦しみ、同時に喜びを抱えて進む。
北極の冒険のノンフィクションであるが、単なる野外での冒険劇ではなく、チームの中に生まれた小さな社会の物語であり、彼らの成長の物語だ。巻末に、参加メンバー4名による旅を振り返った文章を収録しているが、本書の肝はここだ。
衝動的に旅立った冒険の旅を、彼らがいまどのように意味付けているか。ぜひ、お読みいただきたい。
【書名】君はなぜ北極を歩かないのか
【著者】荻田泰永
【定価】本体1,600円+税
【出版社名】産業編集センター
【著者のプロフィール】
1977年神奈川県生まれ。北極冒険家。2000年に冒険家・大場満郎氏が主宰した「北磁極を目指す冒険ウォーク」に参加。以来、カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行に挑戦。2019年までの20年間に18回の北極行を行った日本唯一の「北極冒険家」。
2016年、カナダとグリーンランドの最北の村をつなぐ1000kmの単独徒歩行(世界初踏破)。
2018年、南極点無補給単独徒歩到達に成功(日本人初)。同年「2017植村直己冒険賞」を受賞。
2019年には、若者たち12人との北極行「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」を実現。
2012年からは小学生の夏休み冒険旅「100milesAdventure」を毎年行っている。
2021年神奈川県大和市に「冒険研究所書店」開業。
主な著書に『北極男 増補版』(山と渓谷社)、『考える脚』(KADOKAWA)(第9回「梅棹忠夫・山と探検文学賞」受賞)、井上奈奈との共著絵本『PIHOTEK 北極を風と歩く』(講談社)(第28回「日本絵本賞」大賞受賞)などがある。
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