驚異のMT受注率!! シビック RSに試乗したゾ

ワトソン君、事件だ

 思わずコナン・ドイルの有名な小説「シャーロック・ホームズ」ばりに呟きそうな出来事が起こった! 世はまさにAT全盛期。MTのイメージの高い商用車(トラック含む)だってAT率は高いし、スポーティさを売りにするクルマだってMTモードはついているけれど結果的にはAT限定免許で運転できちゃうモノ。

 そんなMTレアなクルマ社会で新車受注率の7割弱がMTというクルマがあるのだ! ムムムっ。AT繚乱のご時世だというのに。それはコトのシンソーを確かめて報告せねばなるまいて。と街に乗り出したのは2024年9月にマイナーチェンジ(以下マイチェン)を受けたシビック 。エンジンは1.5リッターの直4ターボの純ガソリンエンジンと2リッター直4とモーターを組み合わせたハイブリッドモデルの2本立てなのだが、MT設定車はスポーティなベクトルのRS(以下RS)。試乗車のRSはタイプRのチャンピオンシップホワイトを彷彿とさせるプラチナ・ホワイトパールのボディカラーを纏う1台。

 現行モデルは2021年に登場。1972年の初代から数えて11代目となる。一目見たときの筆者の第一印象はデカい! というモノ。デカいとはいえ今風のクルマの基準からしたらヒルむほど大きくはないのだが、ワイド&ローのプロポーションがそう感じさせる。マイチェンではフロントバンパーなどの意匠が変わっているのだけれどオーナーやファン以外にはなかなか気づかないかもしれない。しかしですね、中身は変わっているのですよ。見えないトコロに手が入ったと聞くとコーフンしてしまいそうだ。

 現行モデルの目玉は、今週のビックリどっきりメカ! 的にガソリンエンジン搭載車に新しいスポーティグレード、RSが追加されたこと。RSはMT車専用のグレード。専用と謳うからには当然MTしかない! ジツはこのモデルはもともとは今年のオートサロンで参考出品されていたコンセプトカーなので、出るべくして出たモデルでもある。

 RSはそれまでのEX、LXグレードに設定されていたMTモデルの後継車(EX、LXはCVTのみに)という扱いなのだが、これがスゴイ気合の入りよう。いたずらに見た目だけスポーティな雰囲気だけにしないのがホンダ流で、例えばRSのエンジン。スペック自体は他のグレードと変わっていないが、フライホイールを軽量化しエンジンのレスポンスを向上させ、それまでのモサ〜っと回転が落ちていたモノがシュンと落ちるようになった。専門誌的表現だとエンジンの回転降下レスポンスは50%向上、上昇レスポンスは30%アップしているという。さすがF1のホンダ。しかもこれを採用するにあたって従来モデルのフィーリングに不満を持っていた多くのユーザーの声を反映させたというからまたビックリ。

 一方、インテリアのシンプルな水平基調のデザインはほぼ変更なし。室内は随所に赤いラインが入り、アクセントに。夜間などに室内を演出できる間接照明も赤とこだわっている。また新世代コネクテッド技術などは大きく進化。全モデルにグーグルが搭載され、ナビや空調、オーディオなどは声で操作できるように。先進の安全運転支援機能も同様に装備され、特にACCはMTモデルでも渋滞追従機能に対応する。

公道重視の楽しさを享受せよ!

 シートを合わせ、ブレーキとクラッチを踏んでスターターボタンを押す。スポーツモデルながら始動時のエンジン音は静かだ。ローハイド(編集部注:1960年代のアメリカの西部劇の主人公です)のフェーバーさんが愛馬にムチを入れがごとくシフトを1速に放り込んで発進。

 クラッチペダルは重すぎず軽すぎず。それよりもエンジンのフトコロの深さが嬉しい。パワーユニットは前述のようにRS用のセッティングが施されてはいるけれど、大きな変化はない。1.5リッターの直4ターボは182PS/240Nmのスペックだ。

 全幅1800mmを超えるこのボディに1.5リッターと聞くと発進時は踏み込まないと、もたつきそうな響きかもしれないがまったくそんなことはなかった。例えば1500rpmあたりでシフトアップをしていっても交通の流れを乱すこともなく、渋滞時など5km/hから20km/hくらいならば2速へ入れっぱなしでもぐずることもない。1.5リッターの排気量ながらもこの回転域でも速度をのせていける。早い話が扱いやすい。

 実用的な速度域でのギアは60km/hなら4速2000rpm、5速なら1500rpm、もちろん6速にも入る。驚くのは6速に入っていてもその速度域から踏んでもキチンと加速する。

 もちろんシフトダウン不要。さらに高速では90km/hは6速で約2000rpm付近。そこから6速のまま加速して120km/hだと2500rpmを気持ち上回る程度。より切れ味のある加速を希望するならギアを落とせばお好み次第。このさじ加減はMTの醍醐味の一つ。

 さらにこのMTにはレブマッチシステムが搭載されているのも注目。それは減速操作に合わせてエンジン回転数を自動で制御してスムースなマニュアル操作をサポートするというモノ。これがチョー気持ちよくシフトダウンを決めてくれる。例えば6速70km/hで巡行していて、超絶な加速を必要とした時。クラッチを踏んで、回転を合わせて4速に入れるのだけれど、RSは回転を合わせる必要がない。そのままクラッチを踏んで4速へ。しショックもなくギアは入るし、そこからシュワーンと気持ちの良いエンジン回転を味わえる。最高出力は182PSなのけれどそれ以上のパワー感を楽しめるし、何よりも中回転のレスポンスも楽しい。ターボだから効くまでかったるい、というのは昔の話。レッドゾーンまでNAのように、いやF1(乗ったことないケド)のように回ってくれる。前述の軽量化されたフライホイールの影響を体感できるのだ。クネッタ道でもブレーキ減速だけで抜群のシフトダウンを決められる。余談だがブレーキもRS専用でフロントのディスクが大型化されている。

 ただ、筆者のようなボンクラは必要ないとアタマではわかっているけれどつい自分でヒールアンドトゥをしてしまうこともあった。それでも慣れると無駄に(失礼)シフトダウンしたくなるほど気持ちよくシフトダウンが決まる。

 シフトレバー横にはドライブモード切り替えスイッチがありエコ、ノーマル、スポーツ、インディビジュアル(自分好みに作れる)から選択可能。従来からスポーツとインディビジュアルの2つが追加されたカタチだ。クネッタ道はスポーツの方がよりレスポンスが高まって楽しいかも。またスポーツモードにするとエンジンのサウンドが若干だけれど際立つ仕掛けが。

実用性もあるでよ

 かように運転の楽しさだけクローズアップしがちだが、日常ユースも十分にこなしてくれる。FFの恩恵もあって足元スペースに余裕のある後席も快適。街中から高速を流していてもスポーツタイヤ由来のノイズはゼロではないけれど静粛性も高い。その静粛性で音楽を楽しめるよう、BOSEのプレミアムサウンドシステムは標準装備だ。

 RSのサスはサスは専用の味付けで全高が5mm下がっている。部分的にタイプRのモノを流用し、標準モデルよりもスプリングレートはハードになっている。そう書くと腰痛上等! 的な乗り心地と想像されてしまいそうだが、なんとなんと同じエンジンのEXグレードと筆者の感覚で申し上げれば大差はない。スゴイぞ、RS。なおRSのダンパーは大容量タイプらしく街中でもそれが効いているとメーカーの発表だ。あたりは若干柔らかめだけれど芯の硬さは感じる味付けで、想像以上に街中での乗り心地は悪くない。19インチのタイヤでもうまく履きこなしている印象だ。

 また使い勝手も一級品。開口部も空間も広い荷室は便利だし、6:4の分割可倒式後席をうまく使えばかなり大きな荷物も積載可能。

 唯一の注意点を無理やりあげるならば、小回り抜群! とは言い難いところ。最小回転半径は5.7mと想像より大きい。幹線道路でUターンをする時は交差点の真ん中をうまく使わなければ、1回での転回は厳しい。まぁ、これは慣れの範疇ということで。

 試乗すればMTの受注率が7割弱というのも頷ける。実用的なクルマでかつMTを設定していること、そして比較的大柄で大人4人が乗っても快適に移動可能、そんな条件を満たすと今回のRSはどぉーんと大きくクローズアップされる。渋滞や坂道発進を考えるとATの安楽さはよぉーく分かるのだけれど、RSには電動ブレーキのホールド機能がついている。これで「坂道発進」とかいうMT乗り不吉キーワードとはほぼオサラバ可能。何よりも速さではなく走らせた時の気持ち良さはタイプRにも負けてはいない。RSは一般公道でもその多くを楽しめる。特に必要以上にギアを操作して走ればにやけることは間違いない。

ホンダ シビック RS

価格419万8700円〜
全長×全幅×全高4560×1800×1410(mm)
エンジン1496cc直4ターボ
最高出力182PS/6000rpm
最大トルク240Nm/1700-4500rpm
WLTCモード燃費15.3km/L

ホンダ
シビック
問 Hondお客様相談センター 0120-112010

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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