第7回 新行市佳のイチから特撮! ウルトラ音楽の巨匠

ニッポン放送アナウンサーで、放送業界一とも言われる超・特撮ファン、新行市佳さんが書き下ろし連載でモノ・マガジンWebに降臨!

テーマはもちろん「特撮」。イチバン好きな特撮をイチから十まで語ります。

第7回は、偉大なウルトラ音楽の父へ感謝を捧げます。

昨年末、『ウルトラセブン』や『帰ってきたウルトラマン』をはじめ、数々のウルトラマンシリーズの音楽を手掛けられた作曲家の冬木透さんが逝去されました。

『ウルトラセブン』では、「セブン―♪ セブンー♪」でお馴染みの主題歌や、『帰ってきたウルトラマン』では、MATの出撃時に流れる「ワンダバダ…」の男性コーラスが入るBGMが「ワンダバ」と呼ばれ、ウルトラマンシリーズにおける出撃BGMの方向性を決定づけました。

2022年9月10日、かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールで開催された『「ウルトラ音楽の父」冬木透作品による 希望の光コンサート』

日本を代表する吹奏楽団である東京佼成ウインドオーケストラが「交響詩ウルトラセブン」、「交響曲ウルトラコスモ」を演奏するというコンサートでした。

ポッドキャスト番組「東京佼成ウインドオーケストラ presents It’s A Wonderful Wind」を担当していたご縁もあり、このコンサートにも私は足を運んでいたのですが、見事な演奏を披露された佼成ウインドへ万雷の拍手が送られる中、指揮者の大井剛史さんが客席の一点を見つめていました。

その方向を見て、冬木透さんがいらっしゃっていたことを知り、来場したお客様も素晴らしい音楽でウルトラマンシリーズを彩ってくださった冬木さんへの感謝の気持ちを拍手に乗せて届けているようでした。

これが私にとって最初で最後の冬木透さんのお姿になるとは…。

佼成ウインドの演奏から、次々と名シーンが脳裏に浮かび、冬木さんの音楽がいかに物語と密接に結びついていたかを再認識するコンサートでした。

指揮者の大井さんも、実際にウルトラマンシリーズの作品を観てコンサートに臨まれていたそうです。

私事で大変恐縮なのですが、幼少期からエレクトーンを習い、コンクールに向けて編曲や作曲をしていた頃、恩師から指導を受ける中で身に染みて感じたことがあります。

それは、「自分の引き出し」を増やすことが大切ということです。

その引き出しの中にしまっておいたものが作曲や編曲をする際に大切なアイディアの源になるからです。

「引き出しを増やす」というのは、例えば、様々な作曲家の音楽に触れて、その楽曲の構成やコード進行、リズム、楽器編成などを分析してみることなどです。

そういう経験や作業を繰り返していく中で、引き出しが増え、引き出しの中が宝物で溢れ、自分が創作活動をする際に、その宝物たちが形を変えて、いつの間にか自分のイマジネーションを支えてくれるような感覚になります。

それ故に、よく音楽には作曲家の人柄や生き様が表れるとも言われますよね。

冬木透さんの音楽の原体験は何だったのでしょうか。

1935年3月13日に満州でお生まれになった冬木さんは、お医者さんであったお父様がかけていたレコードの音楽を聴き、特にベートーヴェンの「交響曲第8番」とワーグナーの楽劇「ワルキューレ」の「魔の炎の音楽」に心を奪われたそうです。

また、この頃にNHKラジオで放送されていたクラシック番組もお聴きになられていたそうです。

帰国後に広島市内の普通高校を経て、エリザベート音楽短期大学の作曲科に入学し、卒業後にラジオ東京の音響課に入社をされています。

音響の仕事に携わる一方、国立音楽大学の作曲家に編入されますが、その時にドラマ『鞍馬天狗』の音楽を作曲したことが映像音楽作家としてのスタートとなります。

冬木さんとラジオの繋がりが感じられるエピソードは、ラジオ局に勤めている人間として、とても嬉しい気持ちになります。

そして、『ウルトラセブン』の音楽には、冬木さんのクラシック音楽への敬意と愛情が随所に盛り込まれているように感じます。

例えば、第8話「狙われた街」などで使用されている「フルートとピアノのための協奏曲」

古典派的な室内楽の響きが感じられて、モーツァルトのような華やかで柔らかい印象のこの曲は、ダンとメトロン星人が古いアパートの一室でちゃぶ台を挟んで対峙する有名なシーンで流れていますが、映像とのギャップに、かえってメトロン星人の不気味さが増していますよね。

重厚感があり、かつ壮大な物語を音で描いていく「ウルトラセブンの歌」はワーグナーを彷彿とさせますが、「セブンー♪セブンー♪セブンー♪セブン―♪」とモチーフ(動機)を展開していく形からは、ベートーヴェンが「交響曲第5番 《運命》」で「ジャジャジャジャーン」のモチーフを畳みかけるように反復する構成と重なる部分があるような気がします。

また、第47話「あなたはだぁれ?」ではヨハン・シュトラウス作曲の「皇帝円舞曲」、最終回第49話「史上最大の侵略・後編」では、ダンがアンヌに自身がウルトラセブンであることを告白するシーンでシューマン作曲の「ピアノ協奏曲」が使用されており、冬木さんの作曲の根幹にはクラシック音楽があったこと、歩んで来られた人生が滲み出て、それが作曲の源になっていらっしゃるように思うのです。

個人的には、ビブラフォン(鉄琴の一種)、弦楽器によるピッチカート(弦を指ではじく演奏技法)、トランペットなどによって醸し出される不穏な雰囲気が漂う楽曲も印象に残っています。

第3話「湖のひみつ」や第4話「マックス号応答せよ」などで、ビブラフォンの浮遊感ある音色に加えて、ピッチカートで「セブン…セブン…」のモチーフがさり気なく聞こえてくる場面があるのですが、そのミステリアスな雰囲気、トランペットの音にドキッとさせられ、ワクワクしながら目も耳も釘付けになってしまうんですよね。

私も冬木さんの音楽から、まるで画面の外側にまで広がっていくような想像力をかきたてられた一人ですが、きっと多くの人が冬木さんの音楽によって、無限の宇宙や怪獣の迫力、侵略者たちの恐ろしさを体感されたのではないでしょうか。

これから先も冬木透さんが紡いだ音は継がれ、多くの人の引き出しの宝物となって、形を変え、また新しい世界を作っていくことでしょう。

没後から100年、200年が経過しても尚、愛され続けているワーグナーやベートーヴェンのように。

Profile
新行市佳 (しんぎょう・いちか)

ニッポン放送アナウンサー。
1992年東京都生まれ秋田県育ち。 2015年ニッポン放送に入社。
現在は朝のニュース番組『飯田浩司のOK!Cozy up!』(月~金・6時~8時)と『藤井貴彦 Saturday Night Buzz』(土・19時~21時)でアシスタントを担当。
大の特撮好きであり、ニッポン放送と「ゴジラ」とのコラボ番組『ゴジラ|ニッポン放送70周年特別番組 幻のラジオドラマ復活!新春ゴジラ談義』や『山崎貴のオールナイトニッポンGOLD~ゴジラ|ニッポン放送70周年スペシャル~』でアシスタントを務めた。

ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!
月曜日~金曜日の6時から8時まで生放送! ニッポンと世界の今が分かる朝のニュース番組。パーソナリティは飯田浩司アナウンサー。アシスタントは新行市佳アナウンサー。radiko、ポッドキャストでも聴ける。

ニッポン放送『藤井貴彦 Saturday Night Buzz
好きな男性アナウンサーランキングで1位を獲得し、2024年春にフリーとなった藤井貴彦氏の初ラジオ番組! 毎週土曜日7時から9時放送中。街の情報やリスナーのお便り、自身のエピソードなどをもとに話すトークバラエティ。パートナーは新行市佳アナウンサー。


『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』を始め、冬木透先生が音楽を担当した作品を多数配信。
『TSUBURAYA IMAGINATION』。

TSUBURAYA IMAGINATIONは円谷プロダクションの作品や世界観を楽しむためのデジタルプラットフォームである。

▼サービスプラン
・プレミアム 年額 19,800 円(税込 21,780 円)
・スタンダード 月額 500 円(税込 550 円)
・無料お試し

【次回予告】

「新行市佳のイチから特撮!」第8回は2月14日公開!(通常2日と16日の月2回アップ)。特撮愛が溢れて止まらない、アツい連載を見逃すな‼

【急告! スクープアップ!】

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