気になるあのコ
レクサスブランドでついにMTが出た! これを聞いてコーフンせずにいらりょうか。あのレクサスですぜ、レ・ク・サ・ス。一方的に筆者はコーフンしてしまったが、高級車ブランドとしてエモーショナルな体験をブランドコンセプトに掲げるレクサスがついにMT車をリリースした。それが設定されたのはLBXのホットモデル、その名もMORIZO RR(以下、MRR)。車名からしてもメーカーの力の入れようがわかる。今回はMRRをご紹介、なのだ。

帰ってきた小さな高級車
その前にLBXというモデルをおさらい。LBXはそれまでのCTに変わってエントリーモデルを担うSUV。欧州ではプレミアムコンパクトの激戦区、いわゆるBセグメントに相当するボディサイズ。同車はヤリスクロス(以下ヤリクロ)をベースにした、いわば小さな高級車だ。
車名の由来は筆者、LexusブランドのBセグメントのクロスオーバー、かと思ったら違った。正式なのはLexus Breakthrough X(cross)-overの頭文字になる。なるほどである。
小さくても高級車、いやレクサスを名乗る以上ヤリクロをそのまま、というわけにはいかない。ブランドにふさわしいコンパクトSUVにするため、細部にまで手が入っている。例えば車体のフロアを強化したり、振動や音に不利な3気筒エンジンのネガを抑えるためにわざわざバランスシャフトを追加したりなどなど。細かいところではドライビングシートの着座位置やペダルの角度までこだわった。ビスポークビルドと呼ばれるセミオーダーシステムも好評で一時はブランドの販売台数の4分の1がLBXで占めるほどの人気っぷり。
小さな高級車は数字(販売台数)が伸びないといわれるカテゴリーといわれる。理由は簡単。高級車は大きく、広い方がエライというのが通説だから。筆者個人的にはバンプラやルノー・サンク バカラなど小さな高級車は大好きなカテゴリーなのだが、世界的にはそうでないらしい。しかしながらLBXは大ヒット中で、レクサスの門戸を広げ、次期NXやRXオーナーを育てている。ついに筆者に時代が追いついた、ということだ(編集部注:言うだけはタダですから)。

FぢゃないRR
さて、MRRである。お披露目自体は2024年のオートサロンで展示されたコンセプトカー。面白そう、楽しそうという声はアチラコチラで聞いたが、まさか本当にデビューさせてしまうとは。レクサス、いやトヨタの勢いはモノすごい。もちろん1人のクルマ好きとしたら嬉しい限り。ボディはHEVモデルに対して、全幅で15mm大きく、全高は10mm低い。試乗車はレッドスピネル&ブラックのボディカラーを纏い、若人からヤングハート(死語)を持つレディース&ジェントルマンまで似合いそうな1台。


なだらかな曲線のボンネットに収まるエンジンは1618cc直列3気筒ターボ。型式でいうところのG16E-GTS型、そうGRヤリスやGRカローラに搭載されるモノでスペックも同じ304PS、400Nm。このユニットを搭載するGRヤリスにしろGRカローラにしろ超絶楽しいクルマであった。クルマの運転ってこうだよねぇ的に。もちろん腕に覚えがあればもっと楽しいはずだろうけれど、松竹梅の梅以下のような筆者の腕でも十二分に楽しかったパワーユニットだ。

そして、そんな超絶楽しいパワーユニットを搭載するレクサス謹製のスポーツモデルなのにFuji Speed Wayの「F」が冠されていないことも注目。車名につく「MORIZO」は豊田章男会長のサーキットライセンスネームでなんとなくわかるけど、末尾のRRはナンジャラホイ? まさかロールスロイス? いやいや。MORIZOのスペシャルなネーミングがついているからLBXを思い切ってエボリューション化してしまってリアエンジン、リアドライブか? 残念ながらすべて違う(当たり前)。
しかし部分的にはあっているのだ。クルマの骨格ともいえるプラットフォームは通常のモデルとは違う。ヤリクロのGA-Bプラットフォームはベースとなるけれど、後ろ(後輪)はGA-Cプラットフォームの合体バージョンと、GRヤリスと同じ手法で作られる。乱暴に言うと、後ろ側は大きいプラットフォームでAWDの駆動力を生かすためのモノ。前述のように駆動方式は4輪駆動のみで、シーンに応じて前後のトルク配分を最適化するMRR専用チューンになっている。

RRは豊田章男会長、いやモリゾウ氏がオーナーを務めるROOKIE Racingの略。同チームは「モータースポーツを起点としたもっといいクルマ作り」をコンセプトにしている。MRRはスーパー耐久などでモリゾウ氏とパートナーを組む佐々木雅弘氏などが中心となって開発されたモデルで、ズバリそのコンセプトは「クルマ好きが笑顔になるモデル」となっている。つまり高次元のパフォーマンスを求めるのが「F」で、MRRは「クルマ好きが笑顔になる」ことに重点を置いているので「F」はつかないのだ。

笑顔保証の走り!?
ドアを開けるとレクサスなのにMT車だ! しかもハンドブレーキまである! ということがチョー新鮮。んなもんクルマなんだから当たり前でしょう、と突っ込まれそうだが、レクサスですぜ、旦那。ドアの開閉の感覚はまぎれもないレクサスなんだけれどMTのシフトレバーがあることに不思議な気分になるのが、筆者の第一印象だった。乗り込むとLBXだとSUVらしいアイポイントと感じたが、RRはそれよりも若干低めに感じるのも事実。

メーターナセル脇のスターターボタンを押してエンジン始動! V8搭載車のごとく野太いエンジン音がクルマの素性を物語ってくれる。思わずニッコリ。しまった! メーカーの思う壺ではないかい! とヒルミつつ1速へ。適度な重さのクラッチをつないで走り出す。余談だがMRRは8AT車も用意されており、そちらも相当楽しいそうな。
このMTはMTカムバック組にも優しく、イケイケ組にも頼もしい変速時に回転を合わせてくれるiMTシステム採用。またハンドブレーキレバーは開発ドライバーでもある佐々木選手の強い希望で実現したという。

余談だがATモデルはDレンジでもドライバーの意を組んでの変速を謳うGRヤリスお馴染みのダイレクトシフト8AT。こちらのパーキングブレーキは電動式だ。
2000rpm付近を目処にシフトアップしながらまっすぐ走る。信号から信号までのどこにでもありそうなこのシチュエーションでもなんとなく楽しいゾ。乗り心地もタイヤはびっくりな19インチを履いているけれど完全にボディが勝っている印象でGRヤリスよりもしなやかに感じるし、全体的に高級感がある。なるほど、こういうことか! と一人納得の筆者。スパルタンに楽しみたいならGRヤリスが用意されてます、的なモノと思う。MRRはあくまでもレクサスなのだ。未試乗で恐縮だが、おそらくATの方がMTよりも30kg重くなっているので、乗り心地はよりしなやかかもしれない。
街中でも強い突き上げ感は皆無だし、万能に使える懐の深さも感じる。「お気に入りのスニーカーのようなクルマ」がMRRの真のコンセプトはまさに言い得て妙。これだけサスを動かせるのはアンダーボディには補強材を追加したり、パフォーマンスダンパーを組み込んだりとエンジン以上にボディへのこだわりがモノすごいから。結果的にレクサスらしい滑らかな操縦性、流している時の静粛性を実現しているのだ。
高速へ乗り入れ、流れに乗るとまた別の顔を見せてくれる。高速巡行中では6速の約2000rpmで80km/h付近。スポーツタイヤゆえのノイズはあるけれど、車内の静粛性能は想像以上に高い。試乗車はマークレビンソンのプレミアムサラウンドサウンドシステムがオプションされており、音楽も楽しめてまたニッコリ。このシステムをオプションすれば、車両の走行状況に応じた走行サウンドをオーディオスピーカーから鳴動させるアクティブサウンドコントロール(ASC)に加えてボーリュームアップしたエンジン+エキゾースト音を聞けるオマケ付き。通常のオーディオシステムだとエンジン音のみだ。かような多少の演出が入っていても流す時は音楽、回す時はエンジン音とエキゾースト音と気分は間違いなく盛り上がる。ムムム、再度メーカーの思う壺になっているぢゃないか。さらにそのニッコリは続く。SAから本線への合流で少しばかりエンジンを回してみたら、2500rpmを過ぎたあたりから勢いに乗り、あっという間に6000rpmまで到達。このとき3速で約120km/h。背の高いSUVスタイルなれど終始安定していて速い! それでいて加速の気持ち良さは標準装備。
肩肘張らないスポーツカー
これがクネッた道でも走ろうならば、少なくてもドライバーは満面の笑みになる。エンジン回転の上げ下げが気持ちいいし、低いギアをキープしておけば加速に困ることはない。何よりも背の高いSUVとは思えないコーナリングを披露してくれる。筆者のようなボンクラでも抜群のシフトダウンを決められるのはiMTのおかげ。コーナー手前でブレーキング、エンジンの回転合わせはクルマがやってくれるのでギアを落としてクラッチをつなぐだけ。

シフトショックもなくクルマにラクさせてもらっているよなぁ、と思いながらもやはりニヤけてしまう。フルバケットシートでガチガチ足回りのクルマも楽しいけれど、日常ではそれなりに我慢も強いられる。MRRはスーパーへの下駄としても使えるし、流す時は快適なSUVになる。後席スペースだってコンパクトSUVカテゴリーならば許容範囲。シートの仕立てや雰囲気はさすがにレクサスだ。

MRRはどんなシチュエーションでもクルマ好きに響くモデルだった。インテリアカラーやシートの配色、シートベルトのステッチの色までオリジナルコーディネートできる「ビスポークビルド」にも対応しているのもクルマ好きには刺さりまくる。動的な魅力と静的な魅力を考えると価格はGRヤリスよりも高額だけれど、1台でなんでもこなすことを考えたら驚異のコスパなのかも。
レクサス
LBX MORIZO RR
価格 | 価格650万円〜 |
全長×全幅×全高 | 4190×1840×1535(mm) |
エンジン | 1618cc直列3気筒ターボ |
最高出力 | 304PS/6500rpm |
最大トルク | 400Nm/3250-4600rpm |
WLTCモード燃費 | 12.5km/L |