SUV全盛にモノ申すクルマ?
SUVばかりが街中を走る昨今。右へならえでいいのか諸君! あえて言おうクルマは個性でショーブだ、とギレン総帥の演説のようになってしまったがクルマはファッションの一部と考えるなら良いモノがありまっせ。それはフランスの老舗プジョーブランドがリリースするファストバックモデル、408。2022年のパリモーターショーでアンベールされ、日本へは2023年に発売された。408という車名からかつて人気を誇った405や406といった400番台の後継と思われがちだが、ジツは違う。その400番台の後継は407の後は607と統合されるカタチで508になった。このあたりは感情表現が豊かな気分屋と巷で言われるフランス人気質なのかもしれぬ。しかしながらまったく関係ないともいえない408のプラットフォームは308、508と同じモノだから。ああ、フラ車ってフ・ク・ザ・ツ。
そしてボディスタイルはセダンとSUVを併せ持つデザインをもクロスオーバーしたクルマで、ブランド初のファストバックスタイルを持つ。どうだどうだ、猫も杓子もSUVやクロスオーバーを謳う中、こんなデザインもありなんだぜ、というのが408なのだ。
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クルマ界のバロック派
ボディは流線型が基本で、随所にエッヂの効いたラインが入る。このエッヂは視覚的なアクセントにもなっていて、資料にも「光の反射によって色彩が微妙に変化する彫りの深いプレスラインはボディの陰影とともに美しい造形を主張する」とある。確かに筆者のようなオトナ(編集部注:言うだけはタダですから)がクルマを眺めると印象派か新古典主義かといった感じになる。影をうまく使うバロック派として著名なレンブラントといってもいいのかも。早い話がカッコイイ。さすが「洗練された美」の国のクルマだ。その中にライオンの牙をモチーフにしたLEDライトや爪をイメージしたテールランプなど最近のデザインアイデンティティもうまくまとめている。オプセッション・ブルーと呼ばれるボディカラーもこれまたトレビヤーン。
そしていつの間にか横顔アップのブランドロゴ(編集部注:2021年に変更)とエッヂの効いたデザインは躍動的なライオンを想像させ肩で、いやボディで風を切って走るのだ。
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PHEVかガソリンターボか
パワートレインは1.2リッターターボ(130PS/230Nm)とPHEVの2種。PHEVのエンジンは180PS、250Nmを誇る1.6リッターの直4ターボ。余談だけれども1.2リッターの方は3気筒になっている。ミッションはいずれも8AT。試乗車はPHEVの408 GT HYBRIDだった。そのシステム合計出力は225PS、同トルクは360Nm。最大66kmのEV走行ができる。PHEVゆえ外部充電も可能なのだが、普通充電にのみ対応し、6kWならば約2時間半で満充電に。
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気分はSF映画の主人公
ドライバーを取り囲むセンターコンソールと一体化した近未来的なデザインの「i-Cockpit」はスタートレックとかのSF映画の宇宙船のようである。ステアリングは小径でおまけに天地がフラットスタイル。一般的にメーターはハンドルの隙間(?)から覗くモノだけれどプジョーのそれはステアリングの上から見る。試乗車のGTグレードには10インチタッチスクリーン下部にデジタルショートカット機能(i-Toggle)を組み合わせているから余計に近未来的な印象。
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そしてこの運転席は慣れが必要と言われるが、筆者との相性は悪くなかった。慣れが必要と感じたのは車庫入れの時。オツムの弱い筆者は自分でどれだけステアリングを回したか覚えておらず、天地フラットのステアリングと相まってステアリングがまっすぐ! と思ったら逆だったことも。また最近のプジョー、いやステランティスグループのモデルにほぼ共通なのかもしれないけれど、ナビはナビ様としてドライバーが勉強する必要を感じる。メンドーなら自分のスマホをディスプレイにつなげてアプリを使う方が早いかもしれない。
慣れといえば、乗る時は意外にサイドシルが高く、感覚的には大きく跨ぐ感じ。これは視線的に屋根の低さがあるから床も低いだろうと思ってしまうから、だと思う。乗り降りするうちにすぐ慣れるけど。
細マッチョ的ライオン
走り出すと図体と排気量の予備知識という名の思い込みから想像する以上にパワフル。いわゆる細マッチョってヤツかもしれない。バッテリー残量が豊富にある時は基本的にモーターのみで走る。仮にバッテリー残量がなくなっても最低限のハイブリッドカーとして発進時はモーターでそれからエンジンが介入する。それにしてもアクセルレスポンスの良さが気持ちいい。まっすぐ走るだけでも楽しい、これってどこでも楽しめるじゃないか! とにやけていたがネック、いや慣れが必要なこともあった。
それは車間距離を調整する時。ギアを落として車間を調整しようとパドルを引いても、エンジン自体が稼働していなければ「ワシは営業時間外だもんね」的にパドルシフトは受け付けてくれないこと。シフトのBボタンを押せば回生ブレーキがやや強めにかかるのでそちらを使う必要がある。また8ATもラフな加速や減速時にはシフトショックを感じることもあった。これはドライバーの頑張りでなんとかなった。
猫足に惚れてまうやろー
プジョーのシートはいつ座っても、硬めだけれど包まれ感もあり、座り心地がいい。405にフラ車のシートを教えてもらった筆者の欲目もあるけれど街中から長距離まで快適。後席も同様で、このクラスとしては2790mmと大きいホイールベースでかなり広い。
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乗り心地は全速度的にスムース。クルマのキャラクター的なモノもあるけれど、208よりスポーティを前面に押し出していないけれどスポーティさを感じる味付けで、たっぷりなサスストロークは「猫足」と評されるプジョーのそれ。高速では幕の内弁当を食べられるくらいの直進安定性を披露してくれるし、クネッタ道では深くロールしつつもレールがあるが如く旋回してくれる。そこに先ほどの本気すぎないシートのホールド感。街中は乗り心地がよく、高速では安定傾向、そして曲がれば楽しい408は万能移動体なのだ。
専門誌的にいえば、408はEMP2 V3のプラットフォームを採用。シトロエンC5Xとは基本骨格を共有するけれど、シトロエンのソフトな大らかさに対してプジョーのそれはやはりスポーティだ。これだけのサスだとつい山道では頑張ってみたくるのだけれど、パドルシフトのレスポンスがやや鈍い傾向で、積極的にパドルシフトで楽しみたいならば常日頃からスポーツモードにしておきたい。ただし、状況によってはスポーツモードでもエンジンは止まることもあり、そうするとシフトダウンを受け付けてくれない。ノンPHEVの1.2ターボの方がクネッた道は楽しいのかもしれない。コチラの価格は437万6000円からと輸入車としては比較的手が届きやすいことも魅力だし。
カタログ燃費が勝負どころ
長距離といえば試乗車はPHEVゆえ充電が必要になる。そこで、どうせ高速道路ではエンジンもかかるから、の前提で走行しながら充電(高速ではエンジンの回転がほぼ一定だからより充電が早く終わると考えての作戦)。小一時間走るとそれまでシステムを維持するための最低限的レベルから満充電近くになった。余談だが8速の2000rpmで120km/hになる。しかし、ここでディスプレイから燃費をチェックすると、12.1km/L。やはりこの車重でターボとはいえ1.4リッターのエンジンだけでは厳しいか、と思った。走行中の自己充電完了後、しばらく走るとみるみる燃費が向上。今回は高速5割、市街地3割、渋滞1割、山道1割な行程だったが、満タン法で燃費は17.3km/Lだった。カタログ燃費の17.1km/Lを上回ることができた。筆者は密かにガッツポーズ。
動的な実用性もさることながら静的実用性も高いのがフラ車の強み。張り出しの少ないラゲッジルームは通常で536L、後席を倒すと1611L容量になる。
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PHEVという響きから燃費至上主義と思うユーザーには向かないかもしれないが、シートの出来や走りのしなやかさは色気たっぷりなのだ。
プジョー408
GTハイブリッド
価格 | 641万6000円〜 |
全長×全幅×全高 | 4700×1850×1500(mm) |
エンジン | 1598cc直4ターボ |
最高出力 | 225PS/6000rpm |
最大トルク | 250Nm/1750rpm |
モーター最高出力 | 110ps |
モーター最大トルク | 320Nm |
WLTCモード燃費 | 17.1km/L |