ナイジェル・ケーボン 服を読み物にした男[ナイジェル・ケーボン リミテッドエディション5]

ナイジェルが生み出す服はまるで一冊の本であるかのように手にしたとたんに様々に物語を語りかけてくる。そのディメンションは奥深く知れば知るほどさらにその次が知りたくなる。ほかのどんな服にもできない希有な力を備えた服はどのようにして生まれてくるのか。その秘密の一端でも捉えたくてナイジェルの自叙伝を開いてみる。後半ではナイジェル・ケーボンのリミテッドエディション5を紹介する。

文と構成/河村喜代子 Photo Courtesy of Nigel Cabourn via OUTERLIMITS and WPP Archives

VINTAGE
NIGEL CABOURN

英日中3カ国語で記されたナイジェル・ケーボンの個人史&仕事。ゴールデンジュビリーを記念するにふさわしく、装丁はブリティッシュグリーンのベンタイル生地を使用。
価格1万9800円
発行/OUTER LIMITS、2024年

ナイジェル・ケーボンが変わらずに本拠地としているイングランド北東部ニューカッスル。その町近くを流れるタイン川河口には印象的な赤い灯台が立つ。

 英国ランカンシャー生まれのナイジェル・ケーボンは、世界的に有名になった現在もなおイングランド北東部ニューカッスルに置いたアトリエを本拠地にしている。町はニューカッスル・アポン・タインと呼ぶとおり、タイン川のほとりにある。町からすぐ先で川は北海に注ぐ。北海の冬は荒れる。河口の南北には灯台が置かれて、船の出入りを守っている。

 ナイジェルはここのアートスクールで学び、学生のまま起業した。1960年代末だ。ちょうどアメリカでは「サマー・オブ・ラブ」、フランスでは「ヌーヴェルヴァーグ」、そして英国は「スインギングロンドン」の時代だ。主役の若者には、音楽とファッションが必須。ナイジェルが「フラワーパワー」と呼ぶ70年代に突入すると、ヒッチハイクの旅に明け暮れた。世界を見て眼を見開かされたと同時に、コレクションを始める。素材が生地になり付属品と統合されて服になる。それは過去へ深く降りていく時間であると同時に、ブランドとしての「ナイジェル・ケーボン」の未来を構築する時間にもつながっていたにちがいなかった。

歴史的快挙『エベレスト登頂』をヒントに自身によるコンセプトブックを茶目っ気たっぷりにしめす。

インドやビルマに軍人として赴任したナイジェルの父親が残した軍隊手帳。父親が着用していたボンベイブルマーから着想を得て、後年、ナイジェルはアーミーショーツを製作している。

ニューカッスルにあるファッションカレッジ「ニューカッスルポリテクニック」在学中に描いたデザイン画。60年代イギリスの若者文化の息吹に溢れている。ビジネスを始めたのは、まだ学校在学中の1969年。「クリケット」は最初に立ち上げたブランドだ。

1980’s Fireman Clip Coat
モチーフになったのはクリップ式のヴィンテージの消防服だ。オイル引きのコットンにストーンウォッシュ加工の生地を使用する。80年代のナイジェルの名作。

U.K. Mountain Backpacks 1970’s Made in U.K.
ナイジェルの選別眼に適ってアトリエに集められたヴィンテージより、1970年代に英国でつくられたマウンテンバックパック。配色とデザインが英国らしさを主張。

1980’s Cricket Rugby Jersey Shirt
ケーボン作品のヴィンテージ・アーカイブより胸にクリケットのロゴの刺しゅうが入ったラグビージャージ。裾部分はニットで切り替えられている。

ナイジェル・ケーボン リミテッドエディション5

1. LE5 フィンチパーカー
1924年の「エベレスト遠征隊」に参加したジョージ・フィンチにちなんだパーカー。
Item No.80491400000 価格58万3000円

2.LE5 サンディーアーバインジャケット─フォックスブラザーズ
同遠征隊のアンドリュー・アーバインにちなむジャケット。
Item No.80491480000 価格25万3000円

3.LE5 マロリーパンツ─フォックスブラザーズ
1924年のエベレスト遠征隊のG・マロリーからインスピレーションを得た。Item No.80491450000 価格19万8000円

4.LE5 モーズヘッドスモック
1924年のエベレスト遠征隊に参加のH・モースヘッドが着用したベストを参照した。Item No. 80491400010 価格27万5000円

1960年代に世界各国で花開いた若者文化のただ中を生きてきたナイジェル・ケーボン。柔軟な思考で生きるスタイルは、当時も今も変わらない。

ナイジェルが教えてくれたイギリスの官給品に使われるブロードアロー(太い矢印)のいろいろ
17世紀末から英国政府により、政府が所有もしくは支給する物品にブロードアローと呼ばれる矢印を記すように定められた。そのかたちは文字どおり太い矢から、線画による矢印まで多様だった。比率入りの右図は1984年5月発行の英国国防省による「ディフェンススタンダード05-34」より。現在ではブロードアローの使用は必須ではなく任意である。

Nigel Cabourn ナイジェル・ケーボン
webサイトでは、商品カタログだけでなくインスピレーションとなった歴史や人物についての詳しい紹介がある。それらを知った上で向き合えば、各アイテムに対する理解が深まり、いっそうの愛着が増す。

OUTER LIMITS ☎03-5413-6957

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