特撮ばんざい!第63回:『仮面ライダーガッチャード GRADUATIONS/ホッパー1のはるやすみ』上映記念対談/山口恭平監督「卒業アルバムのような映画ができました」×本島純政「宝太郎たちが進む道を想像してほしい」

2023年から2024年にかけ、テレビ朝日系で放送された連続テレビドラマ『仮面ライダーガッチャード』の「その後」を描くVシネクスト『仮面ライダーガッチャード GRADUATIONS/ホッパー1のはるやすみ』が、2025年2月21日から全国劇場にて期間限定上映されます。

錬金アカデミーで「錬金術」を学び、将来は大物錬金術師になるという夢を抱く一ノ瀬宝太郎/仮面ライダーガッチャード(演:本島純政)、そして彼と力を合わせ、邪悪な敵と勇敢に戦った九堂りんね=仮面ライダーマジェード(演:松本麗世)、ついに2人が高校を卒業する時を迎えました。しかし卒業式当日の朝、宝太郎たちはどういうわけか「同じ時間」を何度も繰り返し、そこから抜け出せなくなってしまいます。この状況を把握しているのは、超A級錬金術師として宝太郎やりんねと共に戦った黒鋼スパナ/仮面ライダーヴァルバラド(演:藤林泰也)ただひとり。スパナは時間ループに気づいていない宝太郎や仲間たちに異常事態を告げ、なぜこのような現象が起きているのか、原因を突き止めようとします……。

Vシネクストの上映を記念して、ここでは一ノ瀬宝太郎/仮面ライダーガッチャード役・本島純政さんと、本作のメガホンを取った山口恭平監督のスペシャル対談をお届けします。テレビシリーズでも宝太郎の熱い感情を引き出す重要なポイント回をいくつも手がけた山口監督は、1年間ヒーローを演じ続けてきた本島さんの俳優としての成長を、どんなところから感じ取ったのでしょうか。作品の見どころ紹介を含め、お2人による『仮面ライダーガッチャード』への愛情がこもったトークをお楽しみください!

文/秋田英夫

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テーマは「卒業」

――『仮面ライダーガッチャード』のテレビシリーズが始まってから、1年以上もの月日が流れました。撮影開始のころをふりかえって、この1年で本島さんがどんな成長を遂げたのか、山口監督からおうかがいしたいと思います。

山口 田﨑(竜太)監督が作品の骨子を定めるパイロット(第1、2話)を撮り、僕はそれを引き継いで第3、4話を担当しました。最初のころの本島くんはまだお芝居に慣れていなくて、いろいろな部分で手探りしながら現場に入っていた印象。まさに鍛えがいのある、田﨑監督好みの若者でした(笑)。

本島 おお~! ほんとうに『ガッチャード』の監督のみなさんにはこの1年間でずいぶん鍛えていただいたと思います。

山口 最初のフレッシュさは鮮烈に覚えていますし、その印象を保ったまま、いろいろな経験を積んで、すごく成長しましたね。今回の作品(Vシネクスト)を撮ったときも、いい表情をしてるなあって、何度も思いましたから。

本島 ありがとうございます! 嬉しいです!

山口 『仮面ライダーガッチャード』という作品は、高校生である宝太郎の成長物語で「青春」要素が強かったでしょう。本島くんも最初はなかなか芝居がうまくいかなくて苦労したと思うけれど、現場を重ねていくうちにいくつもの壁を破っていった。そこが劇中の宝太郎と重なるところで、とてもよかったですね。宝太郎とりんねの高校生コンビが共に助け合いながら困難を乗り越えて、ぐんぐん伸びていった印象があります。

本島 山口監督とは第3話、剣道場でスパナと立ち会うシーンから入りました。あのときから現在までずっと印象が変わらず、常に優しく接してくださいました。初期のころから、宝太郎とはこういう人物ではないだろうかと、人物像を一緒に作ってくださいました。今回の作品では、僕のほうから「宝太郎ならこういうリアクションをするのはどうですか?」と、お芝居について監督とディスカッションをすることが増えた気がします。

山口 それは、本島くんが経験を積み、役に対して自分なりに考える余裕ができたってことだよね。

本島 第3、4話のころはとにかく、考える余裕もなく体当たりで日々の撮影をこなしていましたね。

――山口監督が担当された第30話「ライバル参上!?ガッチャとジュリエット」第31話「暗闇のふたり、互いを信じて。」は、宝太郎とりんねが学園祭で「ロミオとジュリエット」の舞台を務めるなど、学園ドラマとしての側面が強いエピソードでした。

本島 ああ~「ロミオとジュリエット」やりましたね。すごく印象に残っている回です。事前に台本の読み合わせを念入りに行い、撮影に臨みました。

山口 劇中劇として、ちゃんと通し稽古をやったんだよね。

本島 全通し稽古、2回やりました。

山口 週一回放送のテレビシリーズだと、走り始めたらスケジュールがキツくなり、台本の読み合わせをじっくりやる時間もなかなか取れません。でもこのお話では劇中劇「ロミオとジュリエット」をしっかり見せたいと思って、あらかじめ本島くんや松本(麗世)さんたち、キャストを集めて稽古をしてもらいました。時間をかけただけのものになっていたと思いますし、評判もよかったんですよ。後にTTFC(東映特撮ファンクラブ)で「ロミオとジュリエット全長版」を配信してもらえたし(笑)。

本島 劇中劇をやるにあたり、僕たちが普通に「ロミオとジュリエット」のお芝居をするのではなくて、宝太郎やりんねが学園祭の舞台に立ったらどんな芝居の仕方をするんだろうと、山口監督と話し合いましたね。

――今回のVシネクスト『GRADUATIONS』は宝太郎が高校の卒業式を迎えるシーンから始まります。「卒業」という言葉から、本島さんは何を連想されますか?

本島 比較的最近のことなので、高校の卒業がまず頭に浮かびますね。僕は今年20歳になり、成人式でひさしぶりに中学時代の同級生たちと再会しました。今はそれぞれ別々な道を歩んでいるみんなと会って思ったのは、卒業には「別れ」という切なさ、ほろ苦さのイメージがあるけれど、それと同じくらい「旅立ち」や「新しい扉を開く」みたいに前向きなイメージをも持ち合わせているなってことです。

山口 もうすでに、本島くんはいろいろな場所で活躍をしているし、「送り出す」側としてはとても頼もしく、安心しています。

本島 ありがとうございます。よかった、留年してなくて(笑)。

山口 留年はないよ(笑)。いくつもの『仮面ライダー』シリーズに携わってきた者としては、若い俳優たちがどんどん一人前に育って、仮面ライダーの経験を活かしてさらなる高みへのぼってほしいという気持ちが強い一方で、離ればなれになる寂しさも感じます。そこは卒業式を迎えた先生のような心境です。いつの日か、同窓会のような形で立派になった姿を見せてほしい、みたいな気持ちもありますね。

――卒業を迎えた宝太郎を演じるにあたって、本島さんはどんな思いを込められましたか。

本島 卒業を「悲しい」ことだと捉えてほしくなくて、『ガッチャード』の登場人物それぞれがこれから新しい道を歩んでいくんだというポジティブなメッセージを宝太郎として伝えたいと思いました。特に九堂(りんね)と宝太郎が会話をするシーンでは、これまで1年間にわたって友情をはぐくみ、信頼関係を積み重ねてきた2人ならではの雰囲気を強く意識しながら、演じました。

山口 テレビシリーズのころから、作り手であるわれわれ「大人」としては宝太郎とりんねのコンビがベタベタした印象にならないよう、意識していたところがありました。ベタベタ感のない、友情強めの関係性。でも高校生の男の子、女の子だから、ふとお互いを意識する瞬間もあるよねっていう。2人の距離感、微妙なバランスのとり方にはこだわりました。

本島 宝太郎は素直でいい奴なんですけど、不器用なところがあって九堂の態度や、微妙な言葉のニュアンスに気づかないんですね。

山口 本作でも、宝太郎&りんねの青春像というか、とてもいい雰囲気が表現できているのではないかと思います。

恐怖のタイムループ!

――前半部では、錬金アカデミー内で宝太郎やりんねたちが同じ時間を繰り返すシーンがありました。お芝居の仕方を変えながらテイクを重ねていく通常の撮影と違い、意識的に同じ動作をしなければならないというのは、たいへんなことではないですか。

山口 実際、演出をしている僕から見ても、みんなたいへんそうだなって思いました(笑)。

本島 やっているうちに、自分がいまどの場面を撮影しているんだろう、何回目のループなのか、わからなくなってきましたから(笑)。

山口 確かに、通常の撮影だと最初のテイクよりさらに良いものを目指すため、芝居を変えてもう一回、みたいな感じで撮っていきますからね。

本島 山口監督をはじめ、『ガッチャード』の各監督からは、そうやって自分のポテンシャルを引き出していただけたと思っています。

山口 俳優としては、最初の一発目の芝居がもっとも新鮮でやりやすいと思うし、それも理解しているんですけれど、若くて伸びしろがある本島くんたちなら、まだもっといい演技が出来るんじゃないか、もっといい部分を引き出せるんじゃないかと考えて、何テイクも重ねていくところがありましたね。僕はどちらかというと「粘る」タイプの演出家だと思います。

本島 自分なりに試行錯誤しながら、監督の希望に添えるようなお芝居をしていこうと思っていました。

山口 でも今回はいつもと違って、最初の芝居とまったく同じ動作やセリフを、何周も反復しないといけないわけだから、そうとう難しかったと思いますね。俳優としては、ついつい前と動きを変えてみたい、前よりも面白い動きにしたいって気持ちになると思うんだけど、グッと我慢して(笑)。

本島 そうなんです。加治木役の加部(亜門)くんからも「最初の動作のときにアドリブなんか入れると、あとで自分の動きがわからなくなるぞ」ってアドバイスされました。僕はお芝居をしていると、どんどん楽しくなってきて本番でアドリブを仕掛けていきたくなるタイプなんです(笑)。

山口 時間がループしている設定だから、前のときと動きが違ったりすると、その動きの変化に何か意味があるんじゃないか? って思われるからね。

本島 今回はアドリブを我慢して、事前に「この場所でこう動き、ここでセリフを言う」みたいに、台本を読みながらどんな芝居をするか、家で練習をしてから臨みました。錬金アカデミーのセットの中で、手をどの位置に置こうかとかも詳細に決めて、同じ動きを何度も繰り返せるよう頑張りました。

――仮面ライダーヴァルバラド/スパナの活躍も、今回の大きな見どころかと思います。スパナ役・藤林泰也さんとの1年間をふりかえって、お2人のご感想を聞かせてください。

山口 藤林くんは高校生チームより年齢が上で、まだ現場に慣れていないころの前半エピソードではみんなを引っ張ってくれましたね。今回ではスパナの複雑な心理描写がドラマのポイントとなり、彼もかなり気合を入れて撮影に臨んでいるなと感じました。

本島 今回の台本を読んだとき、スパナの思いとヤス(藤林さん)の気持ちがリンクしているな、同じだなって思いました。完成した映画を観て、スパナの思いの強さに感動し、見入ってしまいましたね。初めてヤスと出会ったときは、スパナの役どころもあってクールな人なのかなと思っていたけれど、接していくうちにどんどんくだけてきて、可愛いな……というと変ですけど(笑)、ずっと一緒にいたくなるような親しみやすさを感じるようになりました。僕にとっては1年間、苦楽を共にした大切な仲間という意識が強いです。

――『仮面ライダーガッチャード』を卒業し、新たな飛躍を目指す本島さんがこれから演じてみたい役柄、そして山口監督が本島さんにどんな役を演じてもらいたいかを教えてください。

本島 僕も聞きたいです。お願いします!

山口 1年間、ヒーローを演じてきた本島くんですから、逆の方向にふりきって、将来ものすごい「悪役」を演じてほしいと思いますね。現在はまださわやかさ、あどけなさが残っているけれど、何年か経験を積んで、大人の顔と芝居が備わってくれば、どんなに難しい役柄でもこなしていけると確信しています。これからの俳優・本島純政の活躍にとても期待をしています。

本島 ありがとうございます! もっともっと役の幅を広げていきたいと思っています。大好きな俳優・鈴木亮平さんが主演を務められたテレビドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS)のような、「人の命を救う」人物に魅力を感じていて、いつかはそういった役柄にも挑んでみたいです。

――最後に、『仮面ライダーガッチャード GRADUATIONS/ホッパー1のはるやすみ』を楽しみにしているファンのみなさんへお2人からメッセージをお願いします。

本島 まず「卒業」と「時間(タイム)ループ」という、絶対に交わりそうにないはずの2つの要素が融合している点が見どころだと思います。本作では、宝太郎をはじめとする『仮面ライダーガッチャード』の仲間たちがどういう卒業をして、これからどんな道を歩んでいくのか、すべてがはっきりと描かれているわけではありません。それらは映画を観てくださったみなさんの想像にゆだねたいと思います。みなさんの心の中で、『ガッチャード』のみんなが「生きた存在」になってくれれば嬉しく思います。

山口 今回の作品は、『仮面ライダーガッチャード』の「卒業アルバム」のつもりで作り上げました。テレビでは『仮面ライダーガヴ』がただいま放送中ですけれど、『ガッチャード』の思い出をたっぷり詰め込んだVシネクストをきっかけに、もう一回『ガッチャード』テレビシリーズを観てみようかな、と思ってもらえたら嬉しいです。僕たちスタッフと、本島くんたちキャスト陣が心を込めてお贈りする「卒業アルバム」を、ぜひ多くの方々に楽しんでもらいたいです。

Vシネクスト『仮面ライダーガッチャード GRADUATIONS/ホッパー1のはるやすみ』は2025年2月21日から全国劇場にて期間限定上映。

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🄫2023 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映
配給・発売・販売:東映ビデオ

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本島純政
もとじま・じゅんせい 2025年1月5日生まれ。東京都出身。2023年、アミューズに所属し、同年9月に『仮面ライダーガッチャード』一ノ瀬宝太郎役でテレビドラマ初出演・初主演を果たし、幅広い年齢層からの人気を得る。

山口恭平
やまぐち・きょうへい 1981年1月2日生まれ。愛知県出身。助監督を経て、2012年『仮面ライダーフォーゼ』より監督となり、仮面ライダー・スーパー戦隊の両シリーズを多数手がけている。2018年には映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』を監督した。

秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』など特撮書籍・ムックの執筆・編集に携わる。TTFC(東映特撮ファンクラブ)のコラムなど、WEB媒体でもいろいろとやっております!

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