2024年6月1日、東京・池袋「新文芸坐」では「公開30周年突破上映」と銘打ち『仮面ライダーZO』(1993年)、『仮面ライダーJ』(1994年)、そして『ブルースワット』(1994年)、今年(2025年)放送30周年を迎える『重甲ビーファイター』(1995年)という、90年代を代表するヒーロー映画が上映された。客席には30年前に子どもだった人たちから、作品をまだテレビで観たことがない新しいファンまで幅広い年齢層が集まり、創意工夫に満ちた迫力の特撮アクションを存分に楽しんだ。上映後には、各作品にゆかりの深いゲストを招いてのスペシャルなトークショーが行なわれ、つめかけたファンを大いに喜ばせた。
取材・文/秋田英夫
●サプライズゲストも登場!『仮面ライダーZO』『仮面ライダーJ』への愛が止まらないトークショー

イラストレーター・キャラクターデザイナーとして東映特撮作品に参加した雨宮慶太監督は、その優れたビジュアルセンスを高く評価されて1991年のテレビシリーズ『鳥人戦隊ジェットマン』のメイン監督に抜擢されたほか、SF特撮アクション映画『ゼイラム』(GAGA/CROWD)の監督を務め、若き映像クリエイターの俊英として注目を集めた。
上映後のトークショーには、雨宮慶太監督と、監督を支える頼もしき相棒・クリーチャースーパーバイザー竹谷隆之さんが登壇。MC は、当時『特捜ロボ ジャンパーソン』(1993年)の助監督だった鈴村展弘さんが務めた。
『仮面ライダーZO』……遺伝子工学の権威・望月博士が生み出した「ネオ生命体」が、博士の息子・宏を襲う。博士の助手だった青年・麻生勝(演:土門廣)はバッタの遺伝子を組み込まれて改造人間=仮面ライダーZOに変身。何者かの声に導かれたZOは、宏を守って恐るべき怪物・ドラスとの戦いに臨む。
『仮面ライダーJ』……宇宙から飛来した邪悪な侵略者「フォッグ」に命を奪われたカメラマン・瀬川耕司(演:望月祐多)は、地空人による改造手術を受けて大自然の持つ力=Jパワーの戦士・仮面ライダーJへと変身。機械獣母艦フォッグマザーに挑むべく、彼は膨大なJパワーを蓄えて巨大変身を成し遂げる。






当時のとっておき裏話、苦労話で盛り上がる雨宮慶太監督と竹谷隆之さんのトーク模様。
雨宮監督は『仮面ライダーZO』の監督を務めるにあたり「子どものころから仮面ライダーが好きでしたから、自分が作るのなら“こういう風にやりたい”という思いが強かった。その思いが強すぎたのが『ZO』でしたね。最初の仮面ライダーは怖いムードだったから、あのイメージで全体的に怖く、怖くして作ったのですが、今だから言えるけれど各方面から“怖すぎる”とか“子どもが(怖くて)泣いた”と怒られたんです。それで少し反省して、翌年の『仮面ライダーJ』ではライトな雰囲気に軌道修整をしました。『J』のときは、矢島信男監督による“特撮班”を立てる従来の製作スタイルでしたが、『ZO』では特撮スタッフがいなくて、特撮カットは竹谷チームと、今日も観に来ている操演の國ちゃん(國米修市さん)のチームで作ったんです」と、仮面ライダーに対する並々ならぬ情熱を傾け、自身の頭の中にある発想を形にするべく、実力のある若いスタッフと力を合わせて作ったことを話した。
竹谷さんは『ZO』の思い出として「いろいろなものを造型しました。最初の予定にないものを急遽作らなければいけない、なんてことも多々ありましたね。ドラスがZOを吸収してしまう、ってくだりは脚本に書いてあったのですが、監督が『これ合体してるのに、形が変わらないままでいいのかよ』って言い出し、それであの『赤ドラス』を作ったんです。スケジュール的には、アップ仕様のドラスの撮影がもうすぐ終わるから、一週間くらいでそれを改造してって言われました(笑)」と、撮影途中でひらめいた雨宮監督のアイデアに、即対応するという困難な作業をこなしていたことを明かし、苦笑いした。また雨宮監督は「クライマックスで麻生がZOに変身したとき、口から“牙”が飛び出るでしょう。あれも撮影している間に思いついて、竹谷に『ちょっと牙を描いて』とお願いしたんです(笑)。最初、仮面ライダーのデザインを変えちゃいけないと決められていたのですが、ワンカットだけどうしても牙を出したいと思ったんです。あのカットのためだけに、牙の飛び出るヘッドモデルを作ってもらったんです」と、ネオ生命体アジト内で麻生が気合いを入れて変身するシーンでの、ZOの口から牙が飛び出る珠玉のカットの成り立ちを説明した。
竹谷さんは『ZO』『J』の時代をふりかえり「改めて映画を観ると、あのころ大変だったなあという辛い記憶が甦ってくるのですが、その分、面白かったなと思います。若い頃にああいった体験が出来て、よかったです」と、若さと情熱と、研ぎ澄まされた感性を武器に、クオリティの高い映像作品を生み出せた30年前の自分に思いを馳せた。雨宮監督は「ひさびさに映画館で上映された作品を観ると、作った本人なのでここを撮り直したい……みたいな気持ちになるのですが、それ以上に“よくやっていたなあ”という感慨も強く存在しています。ひとりで作るのではなく、チームでとりかからないとできないような画がゴロゴロころがっていました。今回の上映で、この映画が心に響いたという人がいてくれて、後世に語り継いでくれるとしたら、また30年後に上映会が開催されるかもしれません」と、30年の歳月を経てもなお、観る者の心を揺さぶる名カットが満載された『仮面ライダーZO』『仮面ライダーJ』を愛するファンに感謝を示しつつ、共に苦労を分かち合いながら映画を作り上げたスタッフ各氏にリスペクトを捧げた。




突然鳴り響く「愛が止まらない」のイントロとともに、INFIXの長友仍世さんが登場!!
トークショー終了後、なんとINFIXの長友仍世さんがステージに現れ、『仮面ライダーZO』の主題歌「愛が止まらない」を熱唱するサプライズが仕掛けられ、客席のファンを歓喜させた。『仮面ライダーZO』は劇中で「音楽」が重要な位置を占めており、宏少年が心の優しさを取り戻すきっかけとなる、父・望月博士の懐中時計から聞こえるオルゴールの切ないメロディなどは特に印象的だった。このメロディは挿入歌「微笑みの行方」にも用いられ、INFIX(長友仍世、佐藤晃、大神豊治、野間口浩)による流麗な歌唱が、美しいビジュアルをいっそう盛り上げる役割を担っている。
今年(2024年)でデビュー32年を迎えるINFIX。長友さんは「いまも結成当時の4人で活動をしています。だから4人で『微笑みの行方』もできますよ!」と意気込みを示しつつ「『仮面ライダーZO』公開当時の劇場舞台挨拶で、雨宮監督がいらっしゃる中で主題歌を歌ったんですが、そのときは子どもたちからいい反応がなく『おっちゃん変身するの?』って言われた思い出が残っています、あのころはお兄ちゃんだったのに(笑)。今回、31年ぶりに雨宮監督の前で歌わせていただけて、感無量です!」と、30年もの歳月を経て、ふたたび雨宮監督やファンに主題歌を届けられたことに多大な喜びを示すコメントを残した。

●『ブルースワット』『重甲ビーファイター』のヒーローたちが集結!

次のプログラムは、『ブルースワット』(1994年)と『重甲ビーファイター』(1995年)の2本立て。『ブルースワット』はテレビシリーズ第1、2話を再編集し、新規ナレーションと一部新撮映像を組み合わせた劇場版、そして『重甲ビーファイター』はテレビシリーズと並行して撮影が行なわれた劇場用新作映画である。トークショー登壇者は、『ブルースワット』からショウ(鳴海翔)を演じた正木蒼二さん、『重甲ビーファイター』からブルービート=甲斐拓也を演じた土屋大輔さん、ジースタッグ=片霧大作を演じた金井茂さん。そして両作品で助監督を務め、3人とは旧知の間柄である鈴村展弘さんがMCとして、当時の苦労話、思い出話を尋ねた。
『ブルースワット』……人間の身体にインヴェード(寄生)する凶悪なエイリアンが、地球侵略を開始した。対エイリアン秘密組織ブルースワットに属するショウ(演:正木蒼二)、サラ(演:白鳥夕香)、シグ(演:土門廣)は人間になりすます敵の正体を暴き、優れた身体能力とチームプレイで地道に倒していく。しかし、すでに組織の中にエイリアンの一体が入り込み、破壊活動を行っていた。
『重甲ビーファイター』……ブルービート=甲斐拓也(演:土屋大輔)、ジースタッグ=片霧大作(演:金井茂)、レッドル=羽山麗(演:葉月レイナ)はジャマールの傭兵戦士ドラゴ(演:真矢武)の攻撃を受け、ピンチに陥る。しかし、合成獣ヘルズガイラが出現し、拓也もろともドラゴの命をも奪おうとした。卑劣なジャマールに怒りを燃やすビーファイターは、ビートマシンを操縦して戦いに挑む。








当時、助監督を務めた鈴村展弘さんと、思い出話に花が咲くお三方。
最初の話題は『ブルースワット』について。本作は第1、2話の編集版なのだが、当初から映画として公開することを前提に、従来の16mmではなく映画用の35mmフィルムで撮影されていたことが、鈴村さんから明かされた。
『ブルースワット』撮影当時、鈴村さんと仲良くしていた正木さんは「慣れてくると、台本の短いセリフとかは覚えてこなくて、現場に行ってカチンコを持ってる鈴ちゃん(鈴村さん)に『次のオレのセリフは何?』って感じで、直前に聞いてから芝居をしていたりしてたんです。ショウは軽めのキャラクターだから、そんな雰囲気が合っていましたね。(土門)廣ちゃんが演じたシグが、重めのキャラだったので、被らないようにする意味もありました」と、どんな苦境でも明るさと元気さを失わないショウのバイタリティを表現するための秘話を語った。
また、ショウと対照的に生真面目さ、重さを感じさせるシグを演じる土門さんについて正木さんは「敵にやられるとき、ショウやサラはハッ! とかウワッ! といった叫び方をしていましたが、廣ちゃんだけは“フゥウワァッ!”って、独特な叫び方をするんです(笑)。何それ? って廣ちゃんに尋ねたら、とある映画でのアル・パチーノの芝居を意識しているって言われたなあ」と、土門さんが編み出した個性的なリアクションを懐かしそうに思い出していた。
『ビーファイター』劇場版を公開以来29年ぶりに映画館で観たという土屋さんは「こんな立派な劇場でビーファイターの映画を上映してくれるなんて」と感慨深げに語った。金井さんも同じく「上映中は感動して涙を流しながら観ていました」と、撮影当時に苦労したこと、楽しかったことなどさまざまな感情が押し寄せ、自然と泣いていたことを明かした。土屋さんと金井さんは『重甲ビーファイター』がテレビ初レギュラー作品であり、第1、2話の澤井信一郎監督にはずいぶん厳しく鍛えてもらったと、しみじみ思い出を話した。土屋さんは第1話の序盤、昆虫の世界に異変が起きていることを説明するくだりでなかなかOKが出ず、同一シーンを40テイクも重ねることになったと、遠い目をしながら語った。
また金井さんは、森を探索している場面でふと被っている帽子を直そうとして手を添えたとたん、澤井監督から「何やってんだ!」と激怒されたことをふりかえり、苦笑いした。鈴村さんによれば「小手先の芝居」をするな、という意味での怒りだったそうだが、新人の金井さんにとってはそのとき、ただひたすら困惑するしかなかったという。また金井さんは「今思えば、新人を鍛えてくださったんでしょうね。その後、澤井監督には『将軍の隠密!影十八』(1996年)や『女優X 伊澤蘭奢の生涯』(1996年)などのテレビドラマに呼んでいただいたりして、お世話になりました」と、澤井監督とのつながりの深さを回想した。


「行くぞ大作!」「おう!」と声をかけあい、お2人はビーコマンダーを掲げてビーファイターに「重甲」!!
トーク終盤には、ファンに向けたサービスとして、土屋さん、金井さんによる「重甲」ポーズの再現が行なわれた。2人はビーコマンダーのハッチ開閉ギミックの操作に少々手を焼きつつも、見事にカッコいい「重甲」を決めてくれた。


中盤から、ショウの怒りに導かれて異空間から金色に輝く戦士「ゴールドプラチナム」が登場。ここでは正木さんが、プラチナム出現のきっかけとなる「ショウの怒り」のポーズを披露されました!
正木さんは、ショウがゴールドプラチナムの能力でシルバニックギアをまとい「ハイパーショウ」となるきっかけのセリフ「許さねえ~~~っ!!」をポーズつきで決めてくれた。

Ⓒ東映

秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』など特撮書籍・ムックの執筆・編集に携わる。CD『特撮ヒーロー主題歌・挿入歌大全集』(Ⅱ、III)『特撮ヒロイン・ファンタジー主題歌挿入歌大全集』(日本コロムビア)の構成・解説も担当。