

講談師。1983年、東京都豊島区生まれ。本名・古舘克彦。立川談志の落語をきっかけに講談に興味を持ち、2007年に三代目神田松鯉に入門。松之丞を拝命し、2012年に二ツ目に昇進。2018年にTBSラジオで冠番組が開始、そこからラジオやテレビでも人気を博す。2020年には真打昇進とともに大名跡・六代目神田伯山を襲名。名実ともに講談普及をリードする存在となる。日本講談協会、落語芸術協会所属。
※祝・ラジオ100周年! 日本でラジオ初放送が行われたのは、1925年3月22日。『モノ・マガジン』本誌『「ラジオ100周年特集(1月31日発売)」に掲載した講談師・神田伯山さんのスペシャルインタビューを、再編集してweb公開します。
放送開始当時のラジオで、講談は大人気コンテンツだった。そしてラジオ放送100年の今。“百年に一度の天才”ともいわれる講談界の風雲児がラジオ界を席巻している。9年目に突入したTBSの人気番組『問わず語りの神田伯山』の舞台裏を取材し、ラジオへの想いを訊いた。
写真/魚住誠一 文/テクノタク飯塚

神田伯山対談集 訊く!
集英社刊
講談集、講談入門、絵本と著書も多数ある中、昨年10月刊行の最新刊は対談集。2019年から襲名を経た2022年にかけての『週刊プレイボーイ』の不定期連載をもとにしたものだ。今は亡きアントニオ猪木をはじめ、各界のトップランナー11人と語り合った貴重な記録となっている。
人の話を聞くことは根源的なエンタメ。
だからラジオは未来永劫まで面白い。
今を代表するラジオパーソナリティーとして話を聞きたい。そう切り出すと伯山さんは「それは光栄ですが」と前起きし、番組でのハイテンションとは真逆のような落ち着いた調子で語りはじめた。
「他のパーソナリティーの方と自分を比べて考えたことがないから、そういう話ができるかわかりませんけど。講談では、やっぱり自分は未熟だなと思うこともありますが、それは古典講談で同じネタをやっているから。ラジオはあくまで自分の体験をお話ししているので日記の感覚なんです。日記は人と比べませんよね。だから、他の番組に嫉妬したり何か盗もうなんて考えたこともない。素人時代と変わらず好きな番組を聴いてるだけでね。でも他の番組を聴いてもやっぱり、ラジオは各人の日記みたいな文化だな、とは思います」

一歩引いた冷静な視点はナレーションで客観的に物語る講談師ゆえか。だが伯山さんのラジオ遍歴は長く、その愛は静かに熱い。
「最初は『ナインティナインのオールナイトニッポン』や『ゲルゲットショッキングセンター』、ドリアン助川さんの悩み相談とか、ニッポン放送からで、その後TBSで伊集院さんやコサキンも聴くようになって、局ごとの色の違いを楽しんだり。FMでも『放送室』とか、ひと通り聴いてましたね」
渋いところではTBSの長寿番組だった『五木寛之の夜』もお気に入りで、『問わず語り』の「ラジオの友は真の友」という文句もこの番組が元ネタだったりする。
「背伸びして聴く文化もラジオにはあって。五木さんの外国での経験とかを自分とは全く違う世界として触れてましたね。深夜放送には下ネタや堂々と言えない話も含め、いろんな文化が集まっていた。初めて落語を聴いて感銘を受けたのも『ラジオ深夜便』でしたし」
人の話を聞くことはとても根源的なエンタメで、未来永劫続くはず。そういう意味でもラジオは面白い文化だと伯山さんは言う。
「言葉を選んだ本音」を磨き上げ、
リスナーに共感と快感を巻き起こす。
「今は、大久保佳代子さんのポッドキャスト『らぶぶらLOVE』が、あふれるほどの不倫ネタメールを取り上げる不倫肯定ラジオみたいになっていて面白い。そういうつもりはないと番組ではおっしゃっていましたけど(笑)。不倫ってやたら叩かれるけど、犯罪ではないし、実際いくらでもある。実は当事者も悩んでいたりするけど一刀両断で悪にされたら相談もできない。誤解を恐れずに言えば『わかるよ、不倫は楽しい所はあるよね』って共感しちゃうのはラジオの文化。でもやりすぎると破滅するし家族によくないよって、そういう本音と大久保さんの魅力も相まって人気があるんでしょうね」
理性で動けるのは人間の素晴らしさ。だけど動物的な面を否定しちゃ駄目、と伯山さんは続ける。
「どうも建前ばかりが強くなってるんで、もっと社会が成熟して、建前と本音がいい具合に融合した文化になってほしい。まだ過渡期だけど、そこへ向けて打開していけるのがラジオじゃないかと。僕の番組も毒舌だとか悪口ばっかりだとか言われますけど、あくまで僕が思ってることを伝わるように話している。講談はまさにライブ芸で、お客様の目の前でしゃべって、お互いが共有し合うコミュニケーション。それが僕の柱だから、ラジオもそういう要素が強くなりますよね」

本音のメディアとしてラジオを愛する伯山さんに、ここでひとつ、疑問をぶつけてみた。『問わず語り』の口上の「言葉を選んだ本音」とは何なのか? 言葉を選ばないのが本音、という気もするが。
「何かで怒ってる時、それをただ話しても、怒りは伝わらない。僕が好きな岡本喜八監督は多くの戦争映画を撮りましたが、戦争を伝えるのに映画の娯楽性を強調する。ポップに描くことでより悲哀が出ている。『言葉を選んだ本音』とはそういうテクニック、技術論です。怒っている自分も客観的に見て、リスナーに笑ってほしいという」
なるほど、言葉を選べばより人に届く。しかもそうして届いた本音には人を癒す効能もある。
「講談の『清水の次郎長』なんかには『やかましいや、この野郎!』って啖呵を切る場面が付き物ですが、『仕事ですごく腹が立ってたけど、啖呵を聞いてスッとした』って感想をいただくんです。番組で僕の本音を聞いてスッキリしている人も多いんじゃないですかね」
ラジオならではのコミュニケーション、
ラジオにしかないコミュニティ。
本音が共有できた場には一体感が生まれる。だが、本音がネットに漏れ出し第三者が触れた時にはしばしば “炎上” も引き起こす。
「ネットニュースや書き起こしでラジオの密室的な楽しみが失われましたよね。いろんな方のJUNKやオールナイトを聴いてた頃は、テレビの裏側でそう思っていたのかって、内緒話を聴く感覚がすごく楽しかった。ただそういうノリは諸刃の剣で、炎上とかにもつながりやすいんですよね。現代は特に」
書き起こしに多くの問題があるのは確かだが、見る側にもリテラシーが必要だと伯山さんは言う。
「あの手のは勝手に切り取られた二次創作であって、語り手が実際にしゃべった一次情報に当たるのが大事。談志師匠が『目の前の牛乳が腐ってるか腐ってないか、それが人生』と言ってましたが、我々は与えられた情報を鵜呑みにするんじゃなく、色味を見たり匂いを嗅いだり、いろいろやって判断すべきで。反射的に怒ったり炎上させるのはとても貧しい気がします」
炎上を恐れ、ラジオでも当たり障りないことしか言えなくなった昨今。だからこそ『問わず語り』では本音にこだわり、密度の濃い30分で聴く者を魅了してきた。
「ラジオをきっかけにこうして雑誌やテレビにも出していただいてますし、講談を広める上でも明らかにプラスになっている。僕のメディアの柱は間違いなくラジオです。ただ、いつ大炎上して終わってもいいとも思ってます。かじりついてないから逆に続いてきたんでしょうね。でも、これが生放送ならすぐに終わっていた。優秀なディレクターである戸波さんが編集でマズい所は切ってくれて、それでも炎上したらTBSの制作の問題っていう二段構えのおかげです(笑)」

実際、収録では同じ話の流れを繰り返し録音して編集。放送時間を超える場合のカット部分などは戸波Dの裁量が大きいとか。
「古典の講談師だから、やり直すのは全く嫌じゃない。間や視点を変えたり、笑いを足したりね。お笑いの人は一発録りがかっこいいと思うんでしょうが、何発もやるのって楽しいんですよ。付き合わされるスタッフが気の毒なだけで」

一方、他の番組に生出演する時は作品でなくドキュメントという意識なので、仮にうまくしゃべれなくてもダメージはないという。
「でも、『オールナイトニッポン』を生でやったのは上手くいきましたね。収録でしか面白くできない……なんてレッテルは貼られたくないから。ただ考えてみると講談は毎回、生放送みたいなもんなんですけどね。しかし二度言いますが、あのオールナイトは完璧でした(笑)。自画自賛です。あれ以来どうのこうのと言われなくなった。でもやっぱり編集した方が過激ってのが僕の持論です。たとえば10までOKで11いくとマズいとして、生は萎縮して8止まりにもなるけど、編集は常に10が出せますから」
『爆笑問題カーボーイ』出演時はあの太田さんに毒舌を止められていたが、相手とのラリーで調子が出過ぎることもあるのだろうか。
「あれは “コイツはこんなに過激なヤツですよ” っていう持ち上げです。太田さんならもっと上もいけるのに、ありがたいですよね。ラジオを通じて、いろんないい人に出会えたのはうれしいですね」
最後に、今後のラジオにはどんな期待をしているか訊いてみた。
「ラジオを聴きはじめた頃に驚いたのが、大沢悠里とか荒川強啓とか、私の世代だと “誰?” って思うような人たちがずっとしゃべっていたこと。テレビと全然違う世界があるのが面白かった。今もそういうラジオが聴きたい。異常に何かにこだわって熱量もあって、でも無名で顔もわかんないような人。で、やっぱラジオ愛がある人のおしゃべりがいいですね」
なるほど、伯山さん自身も次の伯山的存在を待望しているのだ。

TBSラジオ 毎週金曜日
21:30~22:00
“芸の域にまで高められた「愚痴」と「ボヤキ」”に毎週爆笑必至の30分。各種ポッドキャストにも配信中で、原点となった2017年の特番『ひとり語りの一時間』、初期の『問わず語りの松之丞』から最新回まで全エピソード無料で聴ける。この機会に伯山さん怒涛の快進撃を追体験してみては?
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『モノ・マガジン』2-16 号(1月 31日発売)は、100年前から現在のラジオ機器、推し番組紹介など、ラジオ情報を満載! バックナンバーは書店お取り寄せや「mono shop」で!
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