指南書がアップデート
パサートやティグアンのフルモデルチェンジなどドイツの老舗ブランド、フォルクスワーゲンが攻めている。かなりな攻め攻めで、今回はコンパクトハッチバックのベンチマーカーとして名高いゴルフとそのステーションワゴンであるゴルフヴァリアントが1月にマイナーチェンジ。

8世代目になる現行モデルが8.5に進化。この8.5は2024年の1月には本国で発表されていたが、供給などの問題で日本仕様は約1年遅れに。8.5ってパソコンのOSぢゃないんだからとツッコミを入れたくなるのだけれど、ポルシェの911カレラもマイナーチェンジして992.2ということだし、クルマだけでなく車名も全体的にデジタル化=パソコン化なのかもしれぬ。ゴルフの方はまだわかりやすいが、ポルシェにいたっては車名が911、型式は992と数字が多くなるので根が文系な筆者には混乱のもとになっていたりする。
さてゴルフである。ゴルフといえばコンパクトハッチバックの教科書とされるクルマ。つまりはこのクルマを基準にココがいいとか、アチラは少しとかされるモデルといっても過言ではない。お手本であるからして何かが突出してコイツは凄ぇ! というのはないけれど、全体的にコイツは凄ぇクルマがゴルフなのだ。
ヒカリモノが進化
ゴルフ8は世の流れに沿ってエコでかつ先進安全運転支援システムを装備し、それまでのモデルよりもデジタル化された。8.5も同様でまずエクステリアのヘッドライトが2灯式に変更。このハイビームは照射距離が500mに拡大されたIQ.lightを採用。グリルに鎮座するVWのエンブレムはイルミネーション付きで、ヘッドマークが輝くのは国鉄時代の特急もびっくりなシロモノ。8よりもシンプルな印象を受け、シンプルさがゴルフらしいと感じる筆者にとってかなり刺さるイデタチだ。

そしてインテリア。デザイン自体は変更はないけれど、センターディスプレイは従来の10.25インチサイズから12.9インチへ大きくなった。インパネやシフトまわりは光沢のあるモノになり、見た目の質感は大幅に向上。

大きくなったディスプレイには新しいインフォテイメントシステムMIB4が採用され、IDA(アイダ)ボイスアシスタントが搭載されていて、エアコンなど音声操作が可能。エアコンといえば、インフォテイメントシステム下にあるタッチスライダーが進化を遂げた。今までのそれは夜間照明がなく、感覚で「ええぃ、ままよ!」的にとりあえず触って操作していたのだが、今回のマイチェンによって遅ればせながら、といった趣でバックライトが装備され、使いやすくなった。

サヨナラ3気筒、エンジンの変更もあるでよ
おおよその変更は前述のとおり。今回試乗が叶ったのは2台。最初に乗ったのは1.5eTSIのアクティブベーシック。


豪華さや高級感を商品の目玉にしていないクルマはエントリーモデルが一番「らしい」と言われるので、我ながらナイスなチョイスだ(編集部注:言うだけではタダですから)。エンジンは1.5リッターの直4ターボで116PS /220Nmのスペックを持つ。

ここで、ん? と感じた皆様、そうなのです。8.5への進化でゴルフ初搭載で話題になった1リッター3気筒エンジンは今回カタログからフェードアウトしてしまった。
合わせて8.5に用意されたパワーユニットをご報告。マイルドハイブリッド採用で116PS、150PSと出力違いの1.5リッター直4ターボと2リッター直4のディーゼルターボ。そしてスポーツグレード、GTI用の2リッター直4ターボの計4種。GTIのそれは従来モデルに対し20PSアップの265PSを誇る。
さてさて。走り始めると乗り味がより快適志向になっているのが第一印象。しかしながら足回りの話はプレスリリースのどこにも載っていない。しかしマイチェン前よりも確実にマイルドなフィーリング。筆者が感じただけでは説得力に欠けるので、メーカーの広報さんに聞いてみると、「変わってると思いますよ」との回答。VWを知り尽くす広報部が言うのだから筆者がマイルドになった、と感じたのも的外れではあるまいて。
8.5、いやゴルフの魅力は快適な乗り心地だけでない。筆者のようなボンクラでも感じとれるボディのしっかり感はやはりベンチマーカーだ。
見るからにデコボコな道であってもキャビンはフラットな姿勢に近い。早めに脚が動いて荒い路面をいなしてくれる。もちろんそんな状況でブレーキをかけても不安要素はなく、意に沿ってクルマは動いてくれる。
切り返しが続く道を運転しても安心感と小気味良いフィーリングはさすがだなぁ、と感じる瞬間だ。リアの追従性はフロントに対して心持ち遅らせるように味つけられていて、このコンマ何秒的な動きが絶妙という。

エンジンの116PSと言う響きから思うパワーの物足りなさは皆無。マイルドハイブリッドは発進時にはスターターとしてエンジンを始動するだけでなくエンジンパワーを補う意味でも使われる。なのでここ一番の加速でももう少し! といった状況にはならなかった。また気筒休止システムも磨きかかった印象で定速巡航で少しでもアクセルを緩めるとエンジンが休憩に入る。しかも休止したまま。乗ったことはないけれど、アウディの前身メーカーの一つでもあるDKWがリリースしていた1953年のゾンダークラッセ(896ccの2ストローク直3エンジン搭載)はエンジンブレーキを解除できるレバーがあり、フラットなアウトバーンではこれをうまく使うと大幅な燃費向上になるというモノがあったが、そんな感じなのかも知れぬ。滑空、いや滑走と言う言葉が言い得て妙だ。8.5はそんな状態なのだと思う。もちろんメカニズム的には大きく異なるけれど。さらに付け加えると8.5のエンジンが復帰した時もメーターを凝視しなければまったく気がつかない。
推しはディーゼル?
次に乗り込んだのはディーゼルエンジン搭載のTDI Rライン。若干走りを意識したモデルになる。


動き始めから力強いトルクで踏み込む必要性は感じない。1600rpmから360Nmの最大トルクを発揮するディーゼルらしいといえばらしいけど、この大トルクは2750rpmまで続く。流れに乗る範囲での走行ならば街中で3000rpmも回すことはほぼないので体感的にもかなりパワフル。

ディーゼルユニットながらも滑らかなフィーリングで組み合わされた7速DSGとの相性も抜群。軽く速度を乗せていける。そしてエンジンブレーキを効かせたい時はステアリングに設けられたパドルを引けばよろしい。ただしその場合は2速くらい落とす心構えが必要なほどスムーズに変速していくのだ。うーん、いいぞいいぞ。GTIとは別のベクトルだけれど速くて楽しくて快適。しかも燃料高騰のこのご時世、ハイオクより遥かに安い軽油で済むのも魅力。
快適といえばゴルフの室内空間はこのサイズとしてはかなり広いし、アクティブ以上のグレードには前席左右と後席の3ゾーンで温度調整可能なオートエアコンが標準装備になっている。
今回ハッチバックと同時にマイチェンしたヴァリアントも忘れてはイケナイ。国産勢では絶滅危惧種的になってしまったオシャレで使い勝手のいいステーションワゴンだが、ジツはハッチバックモデルよりも全長が長く、加えてホイールベースも50mmも伸ばされているので後席の足元スペースはハッチバックモデルよりも広い。3人以上で長距離を頻繁にこなすユーザーならディーゼルエンジンのヴァリアントがいっそう魅力的に感じるはず。何はともあれ、ゴルフはしみじみといいクルマなのだ。

eTSIアクティブベーシック
価格 | 349万9000円から |
全長×全幅×全高 | 4295×1790×1475mm |
エンジン | 1497cc直列4気筒ターボ |
最高出力 | 116PS/5000-6000rpm |
最大トルク | 220Nm/1500-3000rpm |
WLTCモード燃費 | 18.8km/L |
TDI Rライン
価格 | 475万3000円から |
全長×全幅×全高 | 4295×1790×1475mm |
エンジン | 1968cc直列4気筒ディーゼルターボ |
最高出力 | 150PS/3000-4200rpm |
最大トルク | 360Nm/1600-2750rpm |
WLTCモード燃費 | 20.8km/L |