
白と黒の文字でグラス表面に描かれた“珈琲”と“牛乳”の文字。ひと目で分かるこんなアイデア商品もまた、特許製品だ。この「珈琲牛乳のグラス」で一躍有名になった若きデザイナー、辻尾一平さんに話を伺った。
写真/鶴田智昭(WPP) 文/小林亮介

辻尾一平
1992年、大阪生まれ。成安造形大学卒業後、トラフ建築設計事務所、TAKAIYAMA inc.を経て2019年独立、2022年に自らの事務所TOAL inc.設立。商業施設や公共施設のサインを手掛ける。好きなものは写真集・猫・お菓子・展覧会・阿部寛。
それでは「珈琲牛乳のグラス」の“キャッチー”さをご覧ください。


日常の風景からヒントを得て試行錯誤の末に商品化
大学でグラフィックデザインを学び、建築事務所を経て独立した辻尾さん。現在はグラフィックデザイナーとして、役場や企業などの建物内のサイン計画を仕事として手がける一方、ウェブサイトやSNSで数々のオリジナルプロダクトを制作、発表している。なかでも大バズりしたのが、こちらのグラスだ。
「ポイントとしては牛乳を入れたときに“珈琲”が普通の文字だと、その影が牛乳の面に落ちちゃうんですよね。それを解消するため、色々と検証しました」
グラスの厚みによって文字が液体の側面に影となって浮き出てしまい、消えたように見えない。文字を内側に印刷するのは食品衛生法的にNGであることを知った辻尾さんは文字を縁取りにすることでこの問題を解消した。もともとの発想のきっかけは、パソコンの画面についたホコリだったそう。
「明るいときには見えないんですけど、電源を落とした瞬間に目について。そういう気になることを僕はよくメモるんですけど、この現象を使えば飲料の色によって文字が消えたり現れたりするグラスができるんじゃないかなっていうところから最初は着想して」
牛乳と珈琲の両方を入れたときには、“珈琲牛乳”の文字が浮かぶと気付いたときには、辻尾さん自身も高揚を覚えたという。
「僕はこうした、ちょっとギミックがあるものを作ることが多くて。グラフィックデザイナーとして平面のデザインがうまい人はたくさんいるんですが、僕はあまりそういうのが得意ではないので、差別化するために、ギミック的な部分は意識しています」
それこそが辻尾さんの強みとなっているのだろう。グラスのほかに、下記の皿もその要素がふんだんに盛り込まれている。いずれもアイデア商品であるだけに、やはり特許の取得は大切だ。
「珈琲牛乳のグラスに関しては販売してからネットで跳ねて、これだけ多くの人に見られたらちょっと危ないかもなっていうスイッチが入って、それで弁理士さんに相談させていただきました」
その弁理士こそ、発明家の小川コータさんだ。じつは、特許として認められるか否かは弁理士の腕によるところが大きく、誰が申請しても取れるわけではないという。
「特許って複雑になればなるほど取りやすいんですけど、こういうシンプルなのは難しいみたいで。このグラスに関しては描いてある表記が内側の液体を示しているところがポイントになっていまして、そういうところで認めてもらった感じですね」
特許に詳しい人からは“よく取れたね”と言われるそう。「珈琲牛乳のグラス」は、発想の秀逸さと弁理士の腕が生み出したプロダクトと言えよう。

TOAL/珈琲牛乳のグラス(取っ手あり) 価格各2200円
漢字をデザインしたものと、英語とグラフィックでデザインしたものがあり、取っ手付きは耐熱グラスなのでホットコーヒーも可。取っ手なしは薄口グラス仕様に。
そして、こちらは特許申請中!

パスタを食べているときに、最後に残った1本がフォークだとすべって取りづらい。そんな日常のストレスを解消するべく、辻尾さんが制作したパスタ専用皿。皿の端にフォークの幅に合わせた複数の凹みがあり、ここにひっかけてすくい上げる仕組み。
こちらにご注目!!
