
日米同盟に基づき、陸海空自衛隊が米軍と訓練をしていることは良く知られています。
近年、そのアメリカに準ずる存在となりつつあるのがフランスです。
海上自衛隊とフランス海軍による訓練は度々行われてきました。最近は航空自衛隊とフランス航空宇宙軍との間でも訓練が行われるようになりました。いよいよ陸上自衛隊とフランス陸軍も、しっかりとした共同訓練を行うようになったのです。
それが、日仏2か国間共同訓練「ブリュネ・タカモリ」です。

この訓練はあまり知られていません。それもそのはず、第1回目が行われたのは、2023年の事です。同年9月10日から29日の間、仏領ニューカレドニアにて行われました。まだまだ歴史の浅い訓練なのです。
訓練名にある「ブリュネ」とは、江戸時代、軍事顧問として来日した陸軍参謀総長・ジュール・ブリュネの名前から取られました。私にとっては、年末時代劇スペシャル「五稜郭」(1989年)で、俳優の岡田眞澄さんがブリュネ役を演じており、それが非常に印象深かったので、この訓練名を聞いた時は、真っ先に岡田眞澄さんの顔が浮かびました。日本に軍事技術等を伝えるとともに自身も幕府軍として戦ったことで知られ、ハリウッド映画「ラストサムライ」のモデルになった人物です。一方「タカモリ」とは、お察しの通り、初代陸軍大将を務めた西郷隆盛に因んでいます。フランスの騎士道と日本の武士道を融合させるという意味を込め、日仏それぞれの名将の名を掛け合わせて訓練のコードネームとしました。

去る2024年9月8日から20日に渡り、「ブリュネ・タカモリ24」として、第2回目が行われました。今回の訓練の舞台は日本です。王城寺原演習場(宮城県)及び岩手山演習場(岩手県)等が使われました。
日本側は第9師団(青森県)から第39普通科連隊を中核とした師団隷下部隊約100名、フランス側は第6軽機甲旅団(ガール県)から約50名がそれぞれ参加しました。
来日した第6軽機甲旅団は、世界中どこへでも駆け付けて戦う緊急展開即応部隊です。湾岸戦争やマリ共和国でのイスラム武装勢力とゲリラ戦などに投入された実戦経験豊富な部隊です。太平洋地域には、前述のニューカレドニアのようにフランスの領土がいくつかあります。こうした飛び地たる領土が侵攻された際に、真っ先に派遣される部隊となるでしょう。また、外国人兵の比率が多いのも特徴です。今回も、外国人部隊から多くの兵が来日しました。

訓練の目的は、「対ゲリラ・コマンドウ作戦に係る戦術技量の向上を図るため」とされ、主として、中隊以下の小隊や分隊による戦術行動訓練及び実弾射撃訓練を行いました。訓練の規模で言えば、かなり小さいものではありますが、実戦で多くのゲリラ戦を経験している第6軽機甲旅団から学ぶものは多かったのではないでしょうか。
9月8日の訓練開始式の後、9日~14日まで機能別訓練が行われました。ここでは、共同指揮所訓練、第1線救護訓練、戦闘射撃訓練(各個戦・分隊戦闘射撃訓練)、市街地戦闘訓練、ヘリボーン訓練、対ゲリラ・コマンドウ訓練などが行われました。そして、16日から19日までは、一連の状況(シナリオ)に沿って行う総合訓練となりました。

まず、市街地に潜伏する敵ゲリラを撃滅するというシナリオでスタートしました。王城寺原演習場内には、市街地戦闘訓練場があり、そこを日本の “ある街” と想定した実戦的な訓練となりました。
敵が潜伏する建物を探すため、日仏部隊ともドローンを活用していました。こうした偵察活動の結果、敵の居場所を突き止め、日仏部隊が突入していきます。戦闘中、敵に捕らえられた陸自隊員を救出するといった場面もありました。
追い詰められた敵は、岩手山地区へと移動しました。日仏両部隊は、第9飛行隊及び第6飛行隊、東北方面航空隊のUH-1J及び第1ヘリコプター団のCH-47JA等を使い追撃していきます。
日仏共同による空中機動作戦を成功させ、今度は岩手山演習場での訓練となります。ここでは、総合戦闘射撃が行われていきました。
まずは、攻撃準備として、UH-1Jからのドアガン射撃が行われていきます。さらに敵を混乱させるため、狙撃手が敵指揮官を狙撃していきます。これは、「高価値目標への射撃」と呼ばれるもので、指揮系統を喪失させるための戦術です。指揮官がいなくなれば、部隊は動くことが出来なくなります。

敵側の装甲車に対しては、第9偵察戦闘大隊の16式機動戦闘車が攻撃します。105㎜砲が次々と火を噴く、大迫力の射撃でした。
さらに、後方地域からは、前線で戦う日仏部隊の前進を支援するため、砲迫の射撃も行われていきました。東北方面特科連隊の4門の155㎜りゅう弾砲FH70の他、第39普通科連隊重迫中隊の120㎜迫撃砲RTが、次々と砲弾の雨を降らせていきました。
このようにして、敵の中核を損耗させていき、日仏両小銃小隊が、一気に前進していきます。陸自の89式小銃と、フランス陸軍のH&K416が、突然起き上がる標的を次々と倒していく銃声が響き渡っていました。
こうしてすべての訓練日程が終了しました。
今年も「ブリュネ・タカモリ」は計画されており、秋頃実施予定だそうです。
