日本一トンがった鋳造メーカー・キャステムに垣間見る、素晴らしき日本の新・ものづくり第2回。東京・日本橋にあるコンセプトショップ「metamate(メタマテ)」の金属雑貨コンシェルジュ・長瀬友行さんが語る3Dプリンタの有効活用とは?
3Dプリンタはあくまでツールの1つにすぎない
mono:3Dプリンタを大活用されているそうですね。
長瀬:3Dプリンタで作ったものをそのまま商品化するというよりは、現場でアイデアをカタチにして、その製品開発を促進するという意味で大きな転機になりましたね。3Dプリンタを使うのに金属加工の技術は全く関係ありません。図面がなくてもOKなレベル。極端にいえば、金属加工やものづくりを知らない人間でもWebでちょっと調べるだけでコマが作れてしまうのです、これは私の経験談ですが。つまり、アイデアありきで自由にサンプルを作ることができるのです。それで何が有用かというと、営業スタッフがそれまでお客さまと図面で話をしていたのが、実際にモノを見ながら話ができる。お客さまからこの部分がね……と言われれば平面ではなく、立体で打ち合わせができるのです。設計段階でお客さまが3Dデータを持っていることも増えているので、そのデータをキャステムで3Dプリントして、次回の打ち合わせに持っていけば、ここはこうですよね、と立体を見ながらより具体的なプレゼンができる。本業の部分でも仕事がスムーズになったのと同時に、こちらからも格段に提案がしやすくなりました。言葉では伝わりにくいアイデアもモノだとすぐ伝わりますからね。
mono:3Dプリンタは今までのものづくりにとって代わるものですか?
長瀬:いえ、あくまで3Dプリンタは今までのものづくりにプラスされるツールでしかありません。例えば、キャステムのロストワックス製法で作った金属部品が金属3Dブリンタで作ることができるようになったとします。でも、じゃあ、ロストワックスは要らないよね、という話にはなりません。これから先、技術がどんどん進めばあり得ますが、現状、やはりそれぞれに課題があるので共存しています。ロストワックスは量産に向きますがその分、金型を作る時間が長いので、本当に3個しか要らないなら職人が削り加工するか3Dプリンタで作った方が効率的。完成品に寸法1/1000mmの精度が必要なら削った方がいいし、寸法が緩くていいのなら3Dプリンタという選択になります。3Dプリンタで樹脂造形したものをロストワックスで金属化することもできるわけですよ。その意味で、3Dプリンタはあくまで切削機やプレス機など様々なツールがある中の1つ。3Dプリンタで出来上がったものが金属化できるかどうかは職人ならわかるじゃないですか。この形状ならウチでは作れるとか、実際に3Dプリントしてわかることもあるわけです。
超人仕様にこだわったロビンマスクの仮面
mono:得てして製法的に作りやすいものをつくりがちですが、新しい視点でものづくりができるメリットも!?
長瀬:”ロビンマスク”(※)の時なんかはヤバかったですね。これ、重量7キロあるんですよ。ウチの技術ならもうちょっと薄くして軽量化することも可能です。ただ、スタッフみんな「キン肉マン」が好きすぎて、いや”ロビン”ってそんな軽いものは被らないだろう、”ロビン”はそんな甘えたことは言わないだろう、と。とはいえ、重すぎると商品として売れないので、今の肉厚に落ち着いています。アイアンファクトリーにはトンがっている人間が多いですね。作るのをやめろと言われて、実際に作るのをやめる人間は1人もいないですからね。
※漫画「キン肉マン」ロビンマスク(1/1金属マスク 原作Ver):原作に登場する鋼鉄製の鎧を原作者・ゆでたまご氏監修のもと、ステンレス鋼で名門ロビン家のマスクを重量7kgの超人仕様で1/1サイズ完全再現。受注生産でお値段は16万5000円ながら、これま80個以上も売れたとか。限りなく原作のロビンマスクに近づけた光沢かつキズありバージョンも(価格11万円)。
mono:ユニークなものづくりを推進する上で、ここ「メタマテ」の意義は?
長瀬:ただ金属雑貨を売って売り上げを立てるというならもっと効率のいい方法があります。そうではなく、製造業が母体にいるので、なんでこんなモノがあるの?こんなモノ作ったの? とか、実はココが凄いんだよと、技術の部分での魅力を伝えられるたらいいなと。
mono:長州力さんの手型(※)とかも?
長瀬:まさにそうですね! その一方で子どもの自由研究向けの金属工作キットがあったり、攻めている部署と真面目な部署がうまく両立できているのがキャステムの強みですね。最終的には数字や広告宣伝に繋がるとか成果が必要なので、ネタばかりでもダメだとは考えています。
※「リキ・ラリアット」:著名人の体の一部や全身などを金属でリアル商品化した「ヒストリーメーカー」の代表作。実際に長州力本人の手型を採取して製作し、血管やシワ、毛穴までも完全再現した”リキ”も感激な逸品。価格11万円(限定10体)。
「meta mate」
金属雑貨コンシェルジュ
長瀬友行さん
1980年岡山県生まれ。2011年キャステム入社。経理、新事業部アイアンファクトリー、広報を経て現職。「ネタ系商品もたくさんやっていますが、日本の技術力の魅力を伝えていきたいですね」。
meta mate誠品生活日本橋店
東京都中央区日本橋室町3-2-1 COREDO 室町テラス2F
TEL/03-6910-3530 営/10:00~21:00※時短営業中(11:00~19:00)定休日/元旦のみ https://www.metamate.jp
キャステム https://www.castem.co.jp